『カゲプロ』を手掛けたボカロP・じん「夢や目標はずっとない」と語るものの、これまでも、そしてこれからも作品を作り続ける理由とは
今のニコニコを伝える、今後のニコニコについてみんなで考える番組『週刊ニコニコインフォ』。
42回目の放送では、司会に百花繚乱氏、運営から栗田穣崇氏、そして今回のピックアップゲストには、カゲロウプロジェクトなどマルチに創作活動をするボカロP・じん氏がリモート登場。
本稿ではじん氏が出演した60分にわたるゲストパートの内容を余すことなくお届けします。
「いいからお前はボカロをやるんだ!」と先輩から助言を受けてボカロPの活動を始めた話から、「カゲロウデイズ」の制作当時に体調を崩して肺に穴が開いた話、「多忙かつ重圧でギターも弾けないような時期が続いた」という状況を打ち破った話まで。
さらに、これまで10年間、そしてこれからも作品を作り続ける理由など、じん氏のクリエイターとしての姿勢や視点についてたっぷり伺いました。
▼ダイジェスト動画▼
■ニコニコ技術部には「ロックンロールを感じる」作品もあって面白い
──じんさんよろしくお願いします! カゲプロ10周年、そして2013年投稿の『オツキミリサイタル』が300万再生を突破だそうです、おめでとうございます!
じん氏(以下、じん):
よろしくお願いします。ありがとうございます!
──前回の番組ゲスト(・M・(まー)さん)からのリレー質問です。「普段、どんな動画を見ていますか?」ということですが、いかがでしょうか?
じん:
普段からそんなに動画を見る人ではないですが、ニコニコ動画の「技術部」タグで不思議な工作をされる方々っていらっしゃるじゃないですか。あれを見ると「めちゃくちゃすごいな~!」と感動しますね。
前に見て面白かったのは、スイッチを押すとアームが伸びて自分でスイッチをオフにする機械の動画です。この世の真理にたどり着いたような気がしました(笑)。
──そういった動画から曲のインスピレーションを受けたことはありますか?
じん:
いや、全くないんです! でも、音楽もこうあるべきなのかな。自分で自分の命を絶っていく感じというか、すごくロックンロールを感じるところはありました。
一同:
(笑)
百花繚乱:
以前、週ニコにゲストで出てくれた歌い手のAdoさんはじんさんの楽曲も聴いていると言っていましたし、そういえばニコニコ技術部の動画を見ているという話をしていましたね。
じん:
そうなんですね。技術部、面白いですよね。
百花繚乱:
前線で活躍しているアーティストのみなさんは、ニコニコ技術部を見て、そこから何か得ている可能性がある……!?
じん:
どうなんだろうな(笑)。自分たちとは全く違う世界ですけど、そういう考え方もあるんだという動画に巡り合えるのはいいですよね。
■「いいからお前はボカロをやるんだ!」 人生を変えた先輩の存在
──ニコニコを知ったきっかけを教えてください。
じん:
自分は北海道出身で、利尻島という島の生まれなんですけど、教師だった父親の転勤で北海道を転々としていました。
それでも学生時代はずっとバンドをやっていたんですが、卒業でバンドも解散になってしまって……。
その後、2011年頃ですかね。専門学校の同級生のお兄さん(以下、先輩)がボカロPをやっていたんです。先輩と色々話した時に「ボーカロイドやったらいいよ!」って言われ、何も知らないところから教えてもらったのがきっかけです。
そもそも北海道の僕の実家はインターネットも通ってなくてパソコンも持ってなかったんです。だからそういう文化を全然知らなくて……。
最初に聞いたボカロは何だったかな……確かsasakure.UKさんの「*ハロー、プラネット。」か「ぼくらの16bit戦争」かな。あと同タイミングくらいで「メルト」だったと思います。
──ボカロPとしての活動の原点もそこにありますか?
じん:
ボカロを初めて聴いていいメロディーだなと感じました。それで先輩に「これってアニソンですか? アニメそんな詳しくないんですけど」みたいに言ったら、「バカヤロー! ボカロはアニソンじゃない!」ってすごく怒られました。
それで「いいからお前はボカロをやるんだ! パソコンも買え! ボーカロイドも買ってこい!」となって、そのまま一式を買ってきたという流れです。
ボカロのおすすめを教えてもらったんですがわからなくて、とりあえず初音ミクを買っていったら「これじゃない!」って怒られたりしました。どうやらおすすめしてもらったのは「Megpoid」だったみたいです。
一同:
(笑)
じん:
バンドやっている時もメンバーとのコミュニケーションが得意ではなかったんですよ。どちらかというと自分の中で妄想を膨らませている方が好きでした。
その自分の中の妄想を初めて形にしたのが「カゲロウプロジェクト」ですね。
栗田:
じんさんの活動に大きな影響を与えたその先輩とは今も交流があるんですか?
じん:
それが全然ないんですよ。北海道に行く機会もほとんどないので、次に行く機会があればご挨拶くらいはしたいですね。
もちろん僕が「カゲロウプロジェクト」を始めたことなどは知っています。それこそ最初の頃は色々教えてもらいながらだったので。
──当時、どんな気持ちで「カゲロウデイズ」をアップロードしたか覚えてらっしゃいますか?
じん:
覚えています。
昔のUKロックのバンドがアルバム1枚でストーリーを描いたりしていたんですが、そういうものに憧れがあったので、ずっとこういう音楽をやりたかったんです。
当時はsasakure.UKさんの曲をよく聴いていて、自分の中で「ボーカロイドはこういうもの」というイメージを持っていたんですが、これを壊すきっかけになったのがwowakaさんの曲に触れたことです。「めちゃくちゃロックじゃないか!」と。
そこから、ギターロックでもいいんだと思うようになり、「夏にギターロックを投稿するぞ」と作り始めた曲です。
その時は仕事をしながら曲を作るという環境だったんですが、「カゲロウデイズ」を投稿するタイミングあたりは仕事がめちゃくちゃ大変な時期で、肺に穴が開いちゃったんですよ。
一同:
えええ!?
じん:
「カゲロウデイズ」で初めてボカロランキング1位を獲ったのも病院で見た記憶があります。
今、改めて「カゲロウデイズ」を聴いて思い出したんですが、当時は「変な曲だし伸びないかな。あんまり聞かれないだろうな~」と思っていました。
僕は吉幾三さんの「俺ら東京さ行ぐだ」冒頭の八木節っぽいフレーズがすごく好きで、当時、それをリスペクトしていて、そういうものが潜んでいるロックな曲を作りたいと思って「カゲロウデイズ」を考えました。
制作の終盤、仕事の先輩に夜まで連れ回されてヘロヘロになって帰ってきて、「なんか曲作ろ」と思って朦朧としながら作って、朝起きたらこれができていたいう感じでした。
なので未だに曲完成の経緯が良く分かっていないんです。
一同:
えぇ……。
──今まで見てきた中で、面白かった動画、思い出に残っている動画を改めて教えていただけますか?
じん:
sasakure.UKさんの『*ハロー、プラネット。』ですね。
──sasakure.UKさん以外に影響を受けた方はいますか?
じん:
ボカロだとやっぱりwowakaさんとか。
それ以外だと、僕が尊敬しているロックバンドの「THE BACK HORN」、小説で言うと中学校の頃からずっと好きだった乙一先生、そういった方々からもすごく影響を受けました。
■迷いというより暗い道をひたすら走っていた
──「カゲロウプロジェクト」を様々なメディアに展開をすることも当初から計画されていたんですか?
じん:
そうですね。先ほど申し上げた通り、ストーリーを描いていきたいという思いがありました。
当時公開していたメールアドレスには出版社の方とか色んな方から「本を書いてみませんか」とか色んなお誘いの連絡をいただき、展開していきました。
──当時は期待と不安はどちらの方が大きかったですか?
じん:
やっぱり不安の方ですかね。
当時は「ボーカロイドの曲で小説を」という流れは全然なくて、いたとしても自分がやりたいものとは方向性が違っていたので、自分でやるにあたっては参考にできることはあまりなくて……。
本の書き方を学ぶために図書館に行ってみたりもしました。
なんとか小説の1巻を書き、最初のメジャーアルバム「メカクシティデイズ」をリリースするまでは僕、まだ仕事もしていました。
一同:
うわぁ……。
じん:
全く寝ていないみたいな時期が続いて……。ただ、せっかくお金を出して買っていただくならちゃんとしたクオリティの作品にしたいというこだわりがありました。
迷いというより、暗い道をひたすら走っていたという感覚でした。
──仕事と創作活動を両立していて大変なこともたくさんあったと思います。そんなじんさんのようになるには何が必要でしょうか?
じん:
まずは「僕みたいにならない方がいい」と思いますね(笑)。
一同:
(笑)
じん:
その人にはその人にふさわしいやり方があると思います。
ニコニコ動画でもYouTubeでもそうですが、再生数が増えることはありがたいですけど、それに比例して批判的な意見というものも大きくなります。
「こういうのは音楽じゃない」とか、嫌悪感を抱いた人も多くいたと思います。
インターネットが関係ないリアルの世界で「ボカロをやっています」と言っても、遊びみたいなものと捉えられてしまったり、あまり理解してもらえないっていうのもありました。
当時、それがすごく苦しくもどかしく悩みの種だったんですが、「あの頃の経験がないとこういう曲は書かなかったかな」というのはその後もたくさんありました。
辛いからこそ曲を作ってきたというところもありますし、辛いから曲を書くという10年だったのかなと思うんです。
なので「どうすれば僕のようになれますか」という質問に答えると、痛いこと辛いことを自分なりに受け止めて、作品に昇華させていくことが出来ると、自分なりの作品に出会えるかもしれないというふうに考えてやっています。
──「カゲロウプロジェクト」をご自身で見る目線や、作品に対する思いは昔と今で違いますか?
じん:
そもそも僕が音楽を始めようと思った中学生の頃って不登校の時期があったんです。その時は本当に人生辛くて、「未来が不安」という毎日だったんです。
その時にふと音楽を聴く瞬間があって、よくわかんないけどめちゃくちゃ泣いたんです。自分のことを歌ってくれているようでその感覚が忘れられなくて。
なので「カゲロウプロジェクト」でも最近の作品でも「中学の頃の自分がこれはいい」と言ってくれるものにしたいという思いが変わらずにあります。
見え方はあまり変わっていないと思うんですけど、もっと鋭く深くじゃないですけど、切実に作品を作りたいという気持ちは年々強くなっています。
■悩んで悩みぬいた時、音楽のテーマに出会えた
──じんさんみたいな活動をしたい人もたくさんいると思います。クリエイターとして今必要なものとはなんでしょう。
じん:
それは僕が知りたいです(笑)。
一同:
(笑)
じん:
何を持っていればいいのかは毎日悩むことですかね。
辛くてモノが作れなくなっちゃう瞬間ってあると思うんです。
僕は10年間、がむらしゃに文字を書いたり音楽を作ってきたりしたんですけど、なかなかいい景色が見えてこない、モノが作れなくて振り絞ろう振り絞ろうとしている時って、どうしても誰かの真似をしたくなったりもするんです。
インターネットを見ているといい完成形がたくさんあって、それが褒められているのを見るといいなと思ってしまう自分もいます。
でも、自分自身でどこまでやれるかというところも大切なんじゃないかと思っています。
というの、そういうふうにして自分が作ったものは、聴いてくれた方から熱かったって言ってもらえることが多かったんです。
アニメのOP曲「daze」を作っていた頃、ホントに精神的に辛かったんです。
疲れがすごくたままっていてスケジュール的にも厳しい中で、それでも誰も聴いたことがない熱いモノを作らないといけないという、周りの人に期待されているものに応えなければいけないと思いながらもホントに空っぽで……。
その頃、インターネットも怖くて「じんは嫌い」とか言われていたし、自分自身のことも好きじゃなかった辛い時期で……。
曲が出てこないとかじゃなくて、ギターも弾けないような時期が続いた状況でした。
百花繚乱:
かなりの追い込まれ具合ですね……。
じん:
それで、ファンの方たちと向き合えていない時期が続いていたんですが、その方たちの言葉がスッと入ってくるタイミングがあって、その瞬間に「曲を書く意味」が見えたんです。
僕は孤独だなって思って閉じこもっていた時期でもあったんですが、ファンの方がいてくれることで僕は元気になれるんだなと思えるようになり、「だったら書けるな」と思えるようになって、その瞬間からものすごい勢いで曲が出来ました。
ただ、悩んで悩みぬいた時、音楽のテーマに出会えたっていうのが僕にとってはドラマティックなことだったんです。
そういうことを信じて作るのが、ものづくりを目指す方にとってもある話なのかなって思いました。
百花繚乱:
今日までじんさんは天才だと思っていたんですが、それ以上にあがき続けてきた「人間力」に魅力があるのかもしれませんね。
栗田:
今、「daze」の歌詞を見たんですが、これがじんさんそのものだったんだなって思うと感動してきました。自分の身を削ってるなって感じがしました。
じん:
当時、そういう音楽のジャンルは流行ってなかったですからね。もう少しおしゃれだったりロック調なものに自分も憧れていたところもあります。
自分は視聴者のみなさんと変わらない普通の人間です。めちゃくちゃ弱いし。自分のことをアーティストと思うこともありませんし、頑張るしかないという感じなので、あまり偉そうなことは言えないです。
栗田:
自分が弱いって言える人がこういうものを作れるってこと自体がすごいと思います。
──ここまでの話だと、ギリギリで追い込まれて生まれた作品が多かったようですが、最近は休めていますか?
じん:
僕、あまり休み過ぎると逆に体調を崩してしまうので(笑)。
一同:
(笑)
栗田:
制作のモチベーションになることや、やってて良かった! と思える瞬間はありますか?
じん:
どうなんですかね……。なんだろうなぁ……。
自分の曲に憧れてくれるみたいな話を耳にすることもありますけど、それでやっててよかったって思えないところもありまして……。
百花繚乱:
まだ走り抜けている途中なんですかね?
じん:
自分の音楽って誰かを助けようとかじゃなくて、僕はこういうところが辛かったみたいなこととかを書いてるんです。
最近の気に入ってる曲だと「失想ワアド」。昔から学校で「おまえ普通なことができないな」って言われることが多くて、「普通なことが難しい」という歌詞が書けた曲だったんです。
この歌詞に対し「自分もそうでした」と言ってもらえた時、「あ~! やっぱりそういう人、いたか~!」と思えました。
当時は「自分だけおかしい、普通じゃない」っていうのがあって、周りから「お前間違ってるよ」って言われている中で、「自分はバケモノなんじゃないか」と感じていたところもあったのんですけど、他にもそういう人がいてくれるというのがわかったのが嬉しいんです。1人じゃないってわかるのが大きいんですよね。
百花繚乱:
じんさんの曲で「自分も同じだ!」という人が集まって、そこにいるみんなが仲間だという安心感がいいですね。
じん:
どこかにそういう人がいてくれるということがわかるだけでも救われます。やれてよかったですし、まだやんなくちゃなと思います。
■死ぬまで逃げないように、作品を作り続けたい
──ニコニコに感じる問題点などありますか?
じん:
ツールって文句を言い出したらキリがない部分もあると思うので、悪いと感じる部分はないです。
あと、パソコンが勝手に起動してボクの代わりに曲を作ってくれたらいいのに……みたいな(笑)。
百花繚乱:
ド甘えが出ましたけど(笑)。
じん:
やっぱり尖ってると感じる部分はコメントが流れるところだと思うんです。
本来、同時に見れないほどたくさんのコメントが一気に流れてきて、それはすごいことではありますが、自分にとっては怖いところでもあります。
当時、自分の曲に批判的なコメントが大量に流れているのを見た時はさすがに心が……っていう時もありました。
──ここまでは振り返りでしたが、今後挑戦してみたいことはありますか?
じん:
たまに考えるんですけど、僕、夢や目標ってずっとないんです。
わかりやすく「紅白に出たい」とか「海外でやりたい」とかあるのかもしれませんが、そうじゃないんですよね。「一番になりたい」もないですし難しい。
「曲を作り続けたい」っていうのはあるかもしれません。
自分はマイナスからのスタートなので、0(ゼロ)に戻ろうとしているだけなんじゃないかと思っています。
うまく生きていけない、社会に馴染めない、自分を見つけられないというようなことが多くて、しょうがなくものづくりを始めたんです。
なので「普通になりたい!」という思いで作っている部分があるのかもしれません。
「明るい方向にいこうぜ!」「みんなで幸せになろう!」という感じよりは、「勝ちたいわけじゃないけど勝手に負けにされたくない、だから普通になりたい」というか、自分が考えていることが伝わっていくように、人間として死ぬまでしっかり逃げないようにしたいというのが目標なので、作り続けたいなと。
百花繚乱:
今日はじんさんの人間臭いところが聞けてよかったです。
──最後に何か告知とか、視聴者のみなさんへのメッセージなどありますか?
じん:
告知は特にありません。
今後も音楽とか物語とか作っていこうとしていますので、僕の作品に触れる機会がありましたら、心を向けていただけると嬉しいなと思います。
あと、kzさん、sasakure.UKさん、ナノウさん、wowakaさんなど、すごい可愛がってくださったボカロPの先輩方は、今日僕が言ったようなことを僕よりももっと強い気持ちを持っていらっしゃると思います。
なのでみなさん、もっとボーカロイドいっぱい聞けばいいと思います。僕たちより年下のボカロPの人もすごいエネルギーありますし、そのような精神が連綿と引き継がれていると思います。
じん氏の情報
・Twitter:
https://twitter.com/jin_jin_suruyo
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