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『レディ・プレイヤー1』のライバルは『ポケモンGO』だった? 「映画というジャンルが負けてしまうかもしれない、というスピルバーグの恐怖心が作った映画」

エンタメと文芸を交互に発表するスピルバーグの戦略

1971 『激突!』
1974 『続・激突! カージャック』
1975 『ジョーズ』
1977 『未知との遭遇』
1979 『1941』
1981 『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』
1982 『E.T.』
1984 『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』
1985 『世にも不思議なアメージング・ストーリー カラー・パープル』
1987 『太陽の帝国』
1989 『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦、オールウェイズ』
1991 『フック』
1993 『ジュラシック・パーク』、『シンドラーのリスト』
1997 『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』、『アミスタッド』
1998 『プライベート・ライアン』
2001 『A.I.』
2002 『マイノリティ・リポート』、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
2004 『ターミナル』
2005 『宇宙戦争』、『ミュンヘン』
2008 『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』
2011 『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』、『戦火の馬』
2012 『リンカーン』
2015 『ブリッジ・オブ・スパイ』
2016 『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』
2017 『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』
2018 『レディ・プレイヤー1』

岡田:
 スティーヴン・スピルバーグの代表作品を時系列順にまとめてみたんですけど、代表作というのが、これくらいあるんですよ。これを見ればわかる通り、ビジネスマンとしてのスピルバーグは“シリーズ化出来るエンターテイメント作品”“評価を上げるための文芸社会路線”の2つを交互にやっている人なんですね。

 さらに、これ以外にも、実は『ジュラシック・パーク』シリーズの3作目のような作品では、自分がプロデューサーに回ることでシリーズ化しているんですね。すごく頭が良くて、映画を撮るのも早い人です。

 そして、そういったシリーズ化できるエンタメ作品で人気を取った上で、『ブリッジ・オブ・スパイ』のような文芸的なものとか社会的なものを作るという、そういう気配りも忘れない人なんです。

 特徴的なのは、あくまでシリーズモノで稼いで、好きな作品を作れる下地を固めてから文芸に挑戦するというところです。

 ここら辺は、押井守さんにも共通しています。押井さんというのは、スピルバーグをすごく薄めた形を取っています。「時々ヒットを出して、みんなが押井守だってヒットを作れるんだと思ったところで、好きな映画を作る」と本人も言ってますから(笑)。

『トランスフォーマー』(画像はAmazonより)


 つまり、1980年代、スピルバーグというのは『インディ・ジョーンズ』シリーズの3本で食っていたんですよ。そして、90年代は『ジュラシック・パーク』で食いつないでます。

 2000年代では、実はプロデュースをやっていた『メン・イン・ブラック』で食いつないでいて、2007年から今までは、これまたプロデューサーをやってる『トランスフォーマー』で食べてるんですね。

 そして、実は『トランスフォーマー』シリーズに関しても、出演者から監督のマイケル・ベイまで、スピルバーグが指名してますから、あれはほとんどスピルバーグ作品みたいなものなんですよ。

 そうやって、確実に稼げるシリーズ作品を、1,2,3,4……と作ることで、ちゃんとビジネス的な評価も上げるというのが、スピルバーグの基本戦略だったんです。

最大の恐怖である『ポケモンGO』を味方に付けようとした

 ところが、この数年は迷走が続いていました。というのも、「新たなシリーズものを立ち上げたい」と思うんだけど、同時に「映画の表現として革命を起すようなものを作りたい」という思いがあるからなんですね。

 そういう目線で見るに、この『レディ・プレイヤー1』という作品は、実は、スピルバーグにとって、ここから先の2020年代全てを食いつなぐシリーズモノとして作ったんだと思うんです。そのために、すごい準備をした上で臨んだ作品なんですね。

 そして、その題材として持ってきたのが、アーネスト・クラインの小説『ゲームウォーズ』だったんです。

『ゲームウォーズ(上)』(画像はAmazonより)


 『ジュラシック・パーク』というのは、「コンピュータグラフィックの力で、もういない生物とか、地球ではもう見られない光景を見せる」ということが目的だったんですけども。『レディ・プレイヤー1』を作るにあたって、スピルバーグは「恐竜よりもすごい世界を見つけた!」と思ったはずなんです。

 かつて子供たちは学校の先生が言うことよりも恐竜図鑑に夢中になった。しかし、今や子供たちは、俺の映画よりも、ゲームやアニメに夢中になっている。このままでは、俺の映画というのは、本とかラジオと同じように、“廃れたメディア”になってしまう!  きっと、スピルバーグにはそういった恐怖心があったんですよ。

 これはネタバレにはならないと思うんですけど、この映画のクライマックスとして、最後の大戦闘のシーンがあるんですよ。

 世界中のみんなが、悪役のゲーム会社“IOI”と戦うために、路上にいる人達が全員ヴァーチャルグラスをつけて「オーッ!」て戦うシーンがあるんですけど。あれって、まんま『ポケモンGO』なんですよ

 わずか1年か2年くらい前に、僕らがすごいビックリして感動した風景。世界中の人らが、みんな路上に出てゲームをやってる。それも、空中に向かってやってる。「これ、なんかスゴい! 何かが起こるんじゃないか? 変わるんじゃないか!?」というふうに、僕らは新しい世界が来たと思ってたんですけども。

 でも、言われてみれば、この光景は、スピルバーグにとっては恐怖そのものなんですよね。だって、そんなことをされてしまったら、もう誰も自分の映画を見てくれなくなるんだから(笑)。

 だからこそ、スピルバーグにしてみれば、『ポケモンGO』というのは敵なんだけども、同時に、「あれを味方につけないと、俺達には未来がない」って思っちゃったんですよ。

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