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かつて“童貞”とは妻に捧げるものだった――童貞はいつから恥ずかしいものになったの? 社会学者・澁谷知美先生に聞いてみた

具体的な解決策――「童貞であることの苦しさの正体を突き詰めよ」

──童貞であることの苦しみは、風俗に行ったら解消されるのか?

澁谷:
 童貞による苦しみが、一体どこにあるのかをまず自分で突き詰める必要があると思うんですよ。端的に親しい関係が女性と構築出来ないから辛いのか。

 それとも同性に対して「俺は女を支配出来るだけの男だよ」っていうのを誇示したいのか。それによって、戦略って変わってくると思うんですけれども。

 女性と親密な関係を構築したいというのであれば、風俗に行っても一時の思いだけで虚しいと思うんですね。

 後者の場合も風俗に行ったからといって、他の男に「俺は女性を支配出来るだけの男だ」ということも誇示出来ないわけじゃないですか。だから自分が童貞であることの苦しさっていうのがどこにあるのかを突き詰めて、戦略的に動くっていうことが必要なんじゃないかなとは思います。

男らしさに男の人がとらわれていることが、諸悪の根源

──童貞への偏見はなくなるのか?

澁谷:
 今の童貞の人たちが、すごく闘って、非童貞の人たちもその闘いに賛同するのであれば、童貞への偏見は変わると思います。つまり童貞差別って結局、男による男差別なんですよね。そこに乗っかる女性もいますけれども、基本、男対男なんですよ。

 それに対して当事者たちが「馬鹿にするな!」というふうに声を上げることが出来れば、なおかつ、非童貞の男の人たちも、ああ、自分たちがやっていることは差別なんだっていうことが気づくことが出来れば、童貞っていう言葉自体がなくなるかなって思います。

 結局、男らしさに男の人がとらわれていることが、諸悪の根源だと思うんですよ。むしろネット時代にそういうものが拡大してきた気がします。身近な学生を見ていると女性に専業主婦を望む男子学生は一旦減ったんですけど、最近また増えてますね。

 男が稼がなきゃとか、女性は働いてもいいけど、家事育児はちゃんとやってねとか。「男らしさの復権」みたいなのが、今、感じられますね。むしろ男らしさを発揮出来る場が少なくなったからこその復権だと私は見ていて。

 つまり以前よりは男の人は稼げなくなったんですよね。男女の賃金格差っていうのも、ちょっとずつですけど狭まっていますし、自分のお父さんが例えば40歳だった時に、自分も同じだけ昇給出来てるかって言うと出来ていないんですよ。遥かに低い水準に甘んじてないといけない。

 そうなると大黒柱としては、威張れないわけですよね。そういう中で、手に出来ないものに対する希求というか、憧れみたいなものが、男らしさを復権させているのかなと思ってます。

童貞の解放と女性蔑視を混同してはいけない

澁谷:
 「男らしさの復権」のトレンドが続けば今後の童貞への風当たりは厳しくなるでしょうね。童貞というのは男でないという風潮ですからね。

 これまで「何歳までに童貞は捨てろ」という伝説は、昔からあるんですけども、その年齢が上がっていってることは確かなんですよ。

 以前なら「20歳までに捨てなさい」だったのが、30までに延びて、40までに捨てなさい、にはならないけど40代の童貞もいますよ、というような報道がなされたりするわけですよね。

 そういう中で、私が半分夢想として思うことは……。もういっそ高年齢童貞がむちゃくちゃ増えて、童貞を馬鹿にするような言説が出てきたら、童貞組合みたいな人たちが、「何を言ってるんだ!」って言って運動を起こすような、そういう時代が来たら面白いなって半分夢想的に思っていますけど。

バレンタインデー粉砕デモ。デモの様子はニコニコ生放送でも中継された。
(画像は革命的非モテ同盟公式Twitterより)

──バレンタインデー粉砕デモみたいに?

澁谷:
 
それってちょっと難しくて、カップルを攻撃してるじゃないですか。ちょっとミソジニー【※】なニオイもするんですよね。「女なんて!」みたいな。それが入ると、そういう運動は支持を得られないので、ただのキワモノがやっているっていことになっちゃう。

※ミソジニー
misogyny.女性や女らしさに対する嫌悪や蔑視の事。

 やっぱり男女関係なく、年齢も関係なく、いろいろな人から支持を得られるような形で運動はするべき。だからもし来たるべき「童貞運動」を起こしたいという人がいれば、そこに注意してねということはお伝えしたいです。当事者以外からも支持も得られる運動こそが成功するので。

童貞で悩んでいる人へ「人を恨むより、自分の人生を充実させること」

──童貞解放運動はどのようにして可能か?

澁谷:
 難しいですね。別に恋人もいないし童貞で、年齢も結構いっているけれども、普通に楽しく暮らしてますよ、ということを見せていくことなんじゃないですかね。声高に何か主張するよりは、いかに自分が充実しているかっていうことを、人々に目に見える形で伝えることかなというふうに思います。

──童貞に伝えたいことは?

 「人を恨んだら駄目です」っていうことですね。「人を恨むんじゃなくて、自分の人生を充実させることを、とことん考えて下さい」ということは、お伝えしたいです。

 自分の人生を充実させるために、考えた結果、例えば恋人を作ることが必要なのであればそのための努力をするべきだし、別に恋人がなくても自分の人生充実しそうだなと思えば、焦って恋人を作る必要もないですし。「とにかく自分の幸せを追求して下さい」ということをお伝えしたいです。

―澁谷先生のインタビュー動画はこちらから―

―生放送タイムシフトはこちらから―

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