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日本アニメが世界ヒットしても何故クリエイターにお金が届かなかったのか? エヴァでヨーロッパにアニメ再ブームを起こしたイタリア人の戦い

構造的にゼロからひっくり返さないと

数土:
 クールジャパンが始まった時に、アニメ、漫画、ゲームが筆頭に挙がっていて、それを数年間やっていたと思うんです。けれど、意外に市場が小さいことに気付いて、そこに国がそんなにお金を突っ込むべきかという話が出て、じゃあクールジャパンとは何かと言った時に「日本の伝統です」「ファッションです」「それを売るための量販店作りましょう」と、どんどん拡散していって、アニメ、漫画、ゲームはちょっと横の方にいったのかなと思っています。

コルピ:
 それは日本のアニメ業界にも悪いところが多分あって、2000年代に入ってから新聞などにも日本のアニメの海外売上高がこれくらいなどと出るようになりました。
 私はアニメの海外販売をやっていたので、おそらく実際の数字の10倍くらいの数字が発表されていた感覚だったんです。ヨーロッパでこんな大きな金額は絶対ないと。だから政府がクールジャパンを作り上げてふたを開けてみたら、「あれ、言われた通りのものじゃない」ということに気付いたのかもしれません。
 それでもクールジャパンは、アニメとかの本来の目的と関係ないところにお金が行っているのではないだろうかと感じますね。

数土:
 日本では、「日本はすごい、すごい」と言っている人たちがいて、もう一方に「日本はもう全然だめだ」と言っている人たちがいる。僕はどちらも違う気がしています。

コルピ:
 90年代初めに、私がアニメに関わるようになった時に一番びっくりしたのはそれですね。アニメーターの荒木伸吾さん【※1】や小松原一男さん【※2】たちはお会いした時にものすごく腰が低くて。ヨーロッパでは誰でも知っているのに、本人たちは「俺はアーティストじゃなくてただのアニメの職人だから」と仰るんです。

 東映アニメーションさんとか東京ムービーの海外担当の人たちも、「ハンナ・バーベラ【※3】とはとても競争できない」と話します。「いや、おたくのアニメは視聴率70%で、ハンナ・バーベラは全然視聴率取れていない」。なのに、なぜ競争できないと思い込んでいるのか? その全く自信のない状況から、今世紀に入って突然、変に自信のあり過ぎる状況に切り替わって、本当はその中間が丁度良いのにと思います。

※1 故・荒木伸吾
アニメーター・キャラクターデザイン。代表作の『UFOロボ グレンダイザー』、『聖闘士星矢』など、仏での仕事も多かった。

※2 故・小松原一男
アニメーター・キャラクターデザイン。『デビルマン』、『ゲッターロボ』、『UFOロボ グレンダイザー』などの永井豪原作のアニメ作品のキャラクターデザインや、宮崎駿監督の映画『風の谷のナウシカ』で作画監督を務めた。

※3 ハンナ・バーベラ・プロダククション
アメリカのアニメーション制作会社。『トムとジェリー』などの代表作がある。現在は、ワーナー・ブラザース・アニメーション内のブランドとして残っている。

吉川:
 そうしたクールジャパン施策がダメになってしまったのに、日本のアニメ業界がなんとかなっているのは逆にすごいなって思います。それと国はアニメ業界のことをあまり理解していない割に利用しようとする(笑)。

 あとは利益の配分ですよね。『シン・ゴジラ』を作ったら、海外であれば総監督の庵野秀明さんは相当な大邸宅を建てられるようなお金を確実に得られる。興行の配分が日本と海外は全然違います。

コルピ:
 日本に来て、ダイナミックプロダクションの本社ビルを見て、自分の目を疑いましたよ、古くて。永井豪先生にしてもその時、50代だったけれど毎日昼の2時に来て、朝の3時半まで仕事をやっていました。
 一方で、アメリカン・コミックスのスタン・リー【※】とかはたぶん何十年とかそうした仕事をやってないのに、原作者として金がどんどん入ってくる。アメリカと日本のその違いはなんなのだろう? と。構造的にゼロからひっくり返さないと変わらないのではないかと思います。

 不思議なのは、アニメ第一世代はもう40代、50代の人が多いじゃないですか。政治家のほとんどもアニメで育った人たちのはずなのに、なんでもうちょっと考えてくれないのか……。
 結論を言うと日本にはクールジャパンは一応あるけど、あんまり国に期待しない方が良いということになってしまうかと思います。

※スタン・リー
アメリカのコミックス原作の巨匠。『スパイダーマン』や『アベンジャーズ』『X-メン』を生みだした。

──ありがとうございました。

インタビューは終始和やかな雰囲気で行われた

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