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北朝鮮の平昌オリンピック参加表明は「非常にしたたかな外交攻勢」金正恩の思惑を政治学者が解説

 2月9日から開幕する平昌五輪。金正恩北朝鮮労働党委員長が新年の挨拶で「平昌オリンピックに代表団を派遣する用意がある」と話したことで、一部ではこれが南北緊張緩和のシグナルではないかと話題になっています。

 この話題を受け、自民党参議院議員の山本一太氏が番組ホストを務める「山本一太の直滑降ストリーム」では、拓殖大学特任教授の武貞秀士氏がゲストで登場し、韓国の若者世代の意識の変化や、朝鮮半島は民族意識が非常に強いことを挙げ、「南北交流が進んでスポーツの世界で行き来が増えれば、(南北関係は)ガラッと変わると思う」とコメントしました。

画像は2018年平昌オリンピック公式Twitterより。

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北朝鮮の五輪参加は一石三鳥のタイミングを狙った外交

左から山本一太氏、武貞秀士氏。

山本:
 北朝鮮情勢がいろいろと動いていますが、総理が平昌五輪に行くと決めました。このあたりの北朝鮮の動き、つまり今まで南の呼びかけを無視していたんですよね。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は去年の夏くらいから「ぜひ平昌五輪に来てほしい」と。「南北融和の象徴のようなオリンピックにしたい」っていう申し出をずっと拒否していた北朝鮮が、急に1月1日、新年の演説で融和姿勢を見せた。

 やはり北側が制裁で困っているからなのか、そのあたりはどのように分析されているのでしょうか。

武貞:
 制裁に困っているからではないですね。満を持して平昌五輪に出たいと思っていたけれど、いろいろなものをゲットしながら平昌五輪への選手参加を決める。一石三鳥くらいを狙ってタイミングを見て1月1日の新年の辞で金正恩委員長が「平昌オリンピックの成功を願っている」「自分たちも選手団の派遣をしたい」と言ったんです。「冬季オリンピックに参加をしない」と言おうと思っていたわけではないんです。ずっと沈黙を保っていた。

 文在寅大統領は昨年の5月に大統領に当選して、6月に韓国で世界テコンドー大会が行われたときに、北朝鮮のIOC委員が韓国に来て「南北の共同入場を含め、五輪で民族の祭典のような平和の祭典にしたい」というようなことを言って、しきりに文在寅大統領は周波を送っていたんですね。金正恩委員長はそれを聞きながら沈黙して、この1月1日タイミングを狙って、「国際的な制裁も緩和をするような方法を講じてくれますか」とかね。

 あるいは韓国の世論を待ちに待った南北共同の参加、あるいは応援団の結成もできるかなと韓国世論が待ちに待ってたよというタイミング。もう一つは南北が仲良くやればトランプ大統領も「米朝も遅れちゃいけないな」と思い始めるタイミングを狙って、1月1日にオリンピック参加を発表したんですね。

 ですから非常にしたたかな、巧妙な、一石三鳥のタイミングを狙った外交攻勢なんです。これを弱りに弱ってやむなくオリンピック参加を決めた北朝鮮という分析をする方がおられたら、それは間違いですよね。1月9日の南北の協議のときも、板門店の会議場に北朝鮮の代表が入ってきた。これも元軍人なんですが、入ってきたときに、「南北のオリンピック参加問題に共同でやることについての話はマスコミに公開しましょうよ」と言ってカメラを見渡したんですよね。

 余裕綽々、自信たっぷりの姿というのは、いかに北朝鮮がこのタイミングでこれを活用して世界に北朝鮮の存在をアピールしようと考えていたかというのを示していますね。

山本:
 なるほど。そうすると明らかに文在寅政権の弱みというか、とにかく平昌オリンピックを成功させないといけない。それを6月の地方統一選挙でも結び付けなければいけない。しかしG7の首脳はあまり来ない。恐らく習近平さんは来ない、トランプさんも来ない、安倍総理もわからない。こういう中で北との融和というものをしっかりと発信しなくてはいけない文在寅政権の弱み、全てを見て外交攻勢を変えてきた。

 しかもそれはよく言われている、相当制裁が効いているからだと言うよりは、かなり綿密な計算に基づいた戦略だということですね。

武貞:
 そうですね。北朝鮮は綿密な戦略に基づいているし、昨年の9月にいろいろなマスコミの批判に晒されながら私は平壌に行きましたけれど、アントニオ猪木参院議員も一緒に行ったときも、向こうの外交責任者の李洙墉(リ・スヨン)さんに「平昌五輪に参加されますね」と聞いたら「一切ノーコメント」と仰ったんです。

 「安倍政権の拉致問題の施策、あるいはアメリカの対北朝鮮政策はこういう解釈をしているのですが、どのようにお考えですか」と聞いたら、バーッと反論するんです。「南北の対話をされたらどうですか」「平昌オリンピックには参加されますね」「2020年の東京オリンピックもぜひいらして下さい」ということについても「ノーコメント」と仰った。

 ノーコメントだから、文在寅政権を批判したくないという気持ちがあったんでしょうね。文在寅さんも弱りきって、北朝鮮との関係改善に活路を見出したというのも間違いで、元々大統領キャンペーン中から文在寅さんは「大統領になれば南北首脳会談をやります」と。「冬季オリンピックも北朝鮮の参加を実現してみせます」というのを、彼のセールスポイントにして大統領に当選したんですよ。

 日韓関係って誰が考えてもうまくいきませんよね。文在寅さんでも朴槿恵(パク・クネ)さんでもだめだった。米韓同盟というのは比較的方程式の定数ですよね。一番伸びしろがあって、前の朴槿恵政権ができなかったことを、あるいは金大中(キム・デジュン)さん、盧武鉉(ノ・ムヒョン)さんという進歩政権もできなかったことを自分はやってみせるんだっていうのが、実は文在寅さんの政治哲学なんですよね。

 つまりこのチャンスで北朝鮮を平昌オリンピックに招待して、世界のオリンピックゲームなんですけれど、なんだか南北のスポーツの祭典みたいになってきましたけれども、それで盛り上がったら文在寅さんの大ヒットだという計算が文在寅さんにもある。

民族意識が強い朝鮮半島。五輪がきっかけで情勢は変わるのか

山本:
 ただ文在寅大統領が進歩系の政権だから、とにかく最初から南北融和重視。当然、金大中大統領や盧武鉉大統領みたいに南北首脳会談をやりたい。しかも文在寅大統領は金大中さえ超えたいということで、北を参加させたオリンピックを大成功させると。

 それによって政権も浮揚するという計算なのかもしれませんが、ここにきてすごく面白い現象があるのは、「これは平昌オリンピックではなく、まるで平壌オリンピックではないか」みたいな批判を韓国の保守メディアがやるようになってきた。

 韓国の女子アイスホッケーチームは22、3人しか出られないはずなのが、北朝鮮が12人きて、合同チームができて35人。3人入れなきゃいけないから、五輪に向けて努力してきた韓国の選手を3人外さなきゃいけない。これ、結構若者が6割以上反対していて、これも一つの原因で、文在寅政権の支持率は落ちている。だから文在寅大統領が思ったようにはいっていない気がしますけれど、どうでしょうか。

武貞:
 いっていないですね。今はいろいろ批判がありますよ。それとやっぱり韓国ではスポーツは政治が絡み合っていますから、こういう機会に進歩派に対して不満を持っていた若者もいるわけですよね。慶尚(キョンサン)道【※】周辺の若い人たちというのは、まだまだ朴正煕(パク・チョンヒ)、朴槿恵政権の政治理念を支持している人がいます。

※慶尚道
朝鮮王朝が朝鮮半島に置いた8つの道「朝鮮八道」のうちのひとつ。また、その道がある地方を指す。韓国の歴代大統領12人のうち8人が慶尚道出身であるなど、有名政治家、実業家を輩出している。朴槿恵政権時代に与党だった自由韓国党はこの慶尚道を支持基盤としている。

 そういう人たちは今、声を上げていますから。少しずつオリンピックが近付いてきて、共同入場、統一の旗に感激する若者はそれほど多くないかもしれませんけれども、実際に南北が一緒に応援団で応援をする。

 日本と南北共同女子アイスホッケーチームが2月14日に試合をしますよね。こういったときに南北が一緒に応援して「日本負けろ! 負けろ!」ってやったら、韓国の5000万人がみんな「南北一緒に応援してよかったな」ってなっちゃうんですよ。これも民族の血だから。そうすると2月25日に閉会式ですけれども、そのときに間違いなく「反対したけれど南北一緒にやってよかったね」「民族はやっぱり協力しあえるんだね」と。

 「それにしてもトランプさんは韓国に余計なことを干渉するね」とか、「日本人って反省もしないで韓国バッシングしてるね」ということで、韓国人で今反対している人たちもガーッと盛り上がっちゃう。それが韓国人です。そうでなくなったら韓国人は韓国人じゃなくなるときです。

山本:
 そのような分析はあまりないので、非常に新鮮ですね。今の話からいくと、オリンピックの最後で若者も「北との融和はいい」となっているんですが、私が面白いと思ったのは、若者って意外とリベラルで、「北朝鮮とは同胞じゃないか」という人が多い。ハンギョレ新聞【※】だって読む人は若い人が多いじゃないですか。

※ハンギョレ新聞
韓国の日刊新聞。1996年10月に題字を「ハンギョレ」に変更した。政治的立場は最左派であり、「ハンギョレ」は「一つの民族」あるいは「一つの同胞」という意味。

 そう思っていたんだけど、今回のアイスホッケーチームの若者の反発を見て、「今の若い人たちはとにかく北朝鮮が核実験をやり、ミサイル発射をやるのを見ているから、あまり同胞という感覚がない」と分析をする人もいます。

 文在寅大統領が北寄りの政策をすると反発すると。昔の若者世代とは違うという分析をする人もいて、それが事実だとしたら面白いと思いました。そういう傾向はあるのかというのを聞きたいです。若者の意識の変化とそれがもたらすものとは何でしょうか。

武貞:
 若い人たちは「自分たちは一生懸命経済発展をして、繁栄もしている」と。サムスン、ヒョンデ(ヒュンダイ)、さらに世界のシェアを食いたいなと。それに向けて若い人はどこに就職するか、もっと経済繁栄した大韓民国のために貢献したいと思っているし、もっと豊かな生活をしたいと思っている人たちがほとんどです。
 
 そのときに南北がさらに融和を進めて、ものすごいお金を払って北朝鮮のインフラ改善のために経済支援をするというプランに対しては賛成とは今は言い難いですよね。今は言い難いけれども、それはまだまだ南北対立、軍同士が対立して双方が銃を持って向かい合って、交流がずっと長い間なかったわけです。

 盧武鉉政権以降、李明博(イ・ミョンバク)政権、朴槿恵政権はほとんど南北交流ゼロの状態。朴槿恵政権に至っては、北朝鮮に対する人道的支援をゼロにしたこともあった。

 まだ実感としてないんだけど、少しずつ南北交流が進んでスポーツの世界でも行ったり来たりすることが増えてきたら、ガラッと変わると思いますよ。韓国の人口5000万人のうちの2500万人以上は、1953年の朝鮮戦争休戦協定が結ばれた後に生まれた世代。つまり北朝鮮の朝鮮人民軍が38度線を越えて韓国を席巻して大変な数の韓国の一般市民が命を落とした苦しい経験をしていない世代です。

 言い換えれば、もっと実利的で、目の前に「民族同士ってこんなに話し合えるんだね」というようなことが次から次に起きたらガラッと変わってしまう。朝鮮戦争の経験が彼らに棘のように刺さっているということがないわけです。まだ南北交流は実際に具体的に進んでないから、まだ保守的な賛成票を入れる若者はいますけれど、変わります。それに加えてやっぱり朝鮮半島の人々というのは国家意識というより民族意識が非常に強い。

 ということで韓国の人にとって、アメリカとか日本に対しては、なかなか自分たちの思いが伝わらない気持ち、老若男女問わず持っているわけです。そういうときに日本に対する不満とか、アメリカに対する不満はあっという間に南北交流が進めば、「南北一緒になるのがいいね」となってしまう。

 そのときに当然ですが現実的な発想もありますから、ものすごいお金を払って北朝鮮のインフラ改善するのは嫌だとなったら、韓国の若者が考えるのは日本にお金を出させようとかね。国際協力、ODAを受け取ろうとか、国連の開発計画なんか導入できないかとかというような国際的な枠組みが、そういう形で同じ民族を韓国コストなしで支援していくということが、韓国人の民族意識高揚に繋がるということで一致すると思います。

 それは反対しても賛成しても、韓国の人々に流れていきますから、私は今の流れに対して平昌五輪で南北が一緒に協力することに対して、反対してはいけない。反対しても賛成しても、南北は一緒にやると彼らは決めたらやっていきますよ。

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