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『天空の城ラピュタ』数々のテクノロジーに隠された“技術的な階層差”とは。科学とSFを使い分けた宮崎駿の頭脳を徹底解説

魔法としか思えない飛行石の力

岡田:
 では、『天空の城ラピュタ』に出てくる本当に理解できないSF的テクノロジーというのは何かというと“飛行石”です。シータが胸から下げているペンダントみたいな石のことですね。

 この飛行石は、クラークの第3法則にあるような「魔法としか思えない機能」を持っています。まず、ラピュタの王位継承者の命令しか受け付けない。次に、どう考えても反重力みたいな現象を起こすことが出来る。しかも、「そのエネルギー源をどこからも受け取っていない」んですよ。

 すべて同じアニメの中に描かれているから、ロボット兵も飛行石も、同じように不思議なテクノロジーに見えるんですけど、この2つの間には技術的な階層差があるんです。ロボット兵に比べて、飛行石に使われている技術というのは、明らかに千年くらいは先を行ってるんですね。

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 ロボットとの一番の違いは何かというと組み立てられていないところなんです。飛行石には組み立てた形跡が一切ないんですね。

 ラピュタのロボットは、墜落して壊れたものが分解された状態で映されるので、部品の繋がりや組み立てた痕跡というのも、かろうじてわかるんです。つまり、iPhoneみたいなもので、どんなに不思議な存在のように見えてもバラせるんですよ。

 でも、飛行石はバラせない。ひとつの透明な結晶なんですね。仕掛けが、まったくわからないどころでなく、何の変哲もない塊なんですよ。

飛行石の持つありえない力

 この飛行石が、ラピュタの方角を示す光をパーッと出すシーンがあるんですけど、その発光源すらわからないんですね。中心の適当な位置から光がピューッと伸びているだけ。仕掛けも構造もあったものじゃない。

 これは、「宮崎駿が科学に無知だから」じゃないんですよ。そうではなく、クラークの第3法則というのを知り尽くしているからこそ、ラピュタの科学力の段階差を少しずつ見せるために、あえて魔法のように表現しているんです。

 この飛行石は、声に反応するから、少なくとも音声認識機能があるんでしょうし、その声の主がラピュタの王位継承者かどうかもわかるから、遺伝子認証みたいな機能もあるんでしょう。そこまではいいとしても、反重力に使われたエネルギーというのは、まったく説明がつきません。

 仮に、シータの体重が40kgだとしたら、40kg×重力加速度9.8km/sの2乗。1000mの高さから落ちたとすると、それを中和するには、およそ400万ジュール、カロリーベースでいうと90万キロカロリーに相当するエネルギーが必要なんですけども。

 それを、わずか5g程の飛行石から得ようとしたら、核反応くらいしか選択肢がないんじゃないかというような、エネルギー効率の良さなんです。

飛行石の周りの植物はよく育つ

 パズーとシータが最後にたどり着いたラピュタが、樹木に覆われているのは、飛行石には植物を育てる力があるからなんです。

 これについては、宮崎さんもインタビューで「シータがそれまでひとりで農業をして生きてこられたのは、飛行石によって畑がよく実ったからだ」と答えています。

 では、なぜ飛行石のそばの畑の作物や、ラピュタの木々が過剰に育っていたのか? 手塚治虫の『火の鳥』という作品の中に“アイソトープ農場”というのが出てきます。中央に放射線を発するタワーが配置された未来の農場ですね。

 このアイソトープ農場というのは、1960年代に実際に検討されていたものなんです。放射線の作用によって植物の育ちがよくなるという研究結果が50年代60年代にはよく報告されていたからです。

 ただ、もう、今ではアンチ原子力という流れが強いので、その辺のことを研究する人もいなくなって、元のデータもよくわからなくなってるんですけど。

飛行石は原子力のメタファー

 「ラピュタ」の中で描かれている飛行石というのは、人間が作り出した、自然の中にある膨大なエネルギーであり、触ってはいけないものであり、なおかつ、青い光を放つものなんですね。

 青い光というと、原子炉の中の燃料棒も青い光を発します。この青い光はチェレンコフ光といって、この光を発する現象のことを、チェレンコフ放射といいます。

 チェレンコフ放射というのは、核物質の中から出てくる光よりも速い速度で出てくる微粒子が、光の速度まで減速する時に、速度差のエネルギーを青い光として放出することによって起こる現象です。

 飛行石というものが、ポムじいさんが言っている通り「ものすごい技術なんだけど人が触れてはいけないもの」であるとすると、宮崎駿はこれを原子力のメタファーとして考えていたんじゃないかと僕は思うんです。

 宮崎駿という人は、前回も話した通り、本当に一筋縄ではいかない見せ方をする人なんですよ。

 仮に、僕らがアニメを作ろうとした時に、原子力のメタファーとしてのアイテムを思いついたら、ついつい、アニメの中で全部説明したくなるところなんですけど、宮崎駿というのは、逆に、思いついたら、それを出来るだけわからないようにしたがる人なんですね。

天に浮かぶラピュタとは何なのか?

 僕の考えでは、映画の世界の中では完全に忘れ去られいて記録も残っていない“前期ラピュタ文明”の人々がいて、彼らが、神に会うために、神に近づくために、空中に城を浮かべたんです。

 ところが、その後の“後期ラピュタ文明”に移ってくると、神に会えないことがわかり、今度はラピュタを使って、地上を恐怖で支配するようになった。これが、ムスカの知っているラピュタです。

 では、ここで言う神とは何か? おそらくラピュタ人にテクノロジーを授けた宇宙に住んでいるような人々なんでしょう。そういった存在が、かつてこの星を訪れたんです。

 ラピュタ文明の人々は、彼らからテクノロジーは教わったんだけど、その中心理論までは理解できなかった。なので、ラピュタの中には、飛行石のような明らかに再現不可能なオーバーテクノロジーと、ロボット兵のようなラピュタ文明での教育があれば人間にもギリギリ理解可能な2つの科学が共存していたんですね。

 さて、今、みなさんは、「それはお前の妄想じゃないのか?」というふうに考えているでしょう。なので、これから、その論拠というのを見せたいと思います。

 これは、宮崎駿自身が描いた、ラピュタのイメージボードです。この端っこに、マジックで塗りつぶされたメモ書きがあります。

 この部分をよく読むと、「天より現人神、降臨したまいし時、神の秘跡として、宙に浮かび上がりた古き町。今、世界を統べる聖都として空に君臨している」と、確かに書いてあるんです。

 もちろん、これはあくまでも、ラピュタに関する初期の設定です。でも、だからといって、“捨てた設定”というわけではないんです。あくまでも“映画の中で説明するのをやめた設定”というだけなんですね。

 宮崎駿というのは、「1000個のアイデアを思いついたら、そのうちの100個をとりあえず描いてみて、結局、アニメの中で使うのは3つだけ」という人なんですね。 こういった「考えたけど見せるのをやめた」というのは、宮崎駿には、本当によくある話なんです。

 例えば、宮崎駿は「ラピュタ」のオープニングで映る飛行機械の設定画も、ものすごい量を描いたんですけど、「これは使わない、これも使わない」と言って捨ててしまうんですよ。それを見た鈴木敏夫が「なんで使わないんですか?」と聞くと、「沢山考えて、そのほとんど捨てるのが映画だからだ」というふうに答えたそうなんですけど。

 というわけで、宮崎駿自身が「ラピュタ」の中で使わなかった設定として、「空から降りてきた人がラピュタという文明を与えた。しかし、その人達はもういなくなってしまったので、ラピュタ人たちはこの世界を支配することにした」という文章として残っているんです。

 以上、「決して、俺の妄想というわけじゃないぞ!」という説明でした(笑)。


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