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CPU脆弱性問題、速度と省エネどっちが大事? プログラマー小飼弾が解説「省電力が注目されるまで、高速精度がCPUにとって唯一無二の価値だった」

作り手の“慣れ”が根本的な問題?

山路:
 PEZY Computingで新しいメモリを作ろうとしている話も出ていましたね。

小飼:
 「CPUとメモリの接続が20倍速くなる」と。今時のコンピューターの性能アップは、何割増しとかのレベルじゃないですか。そこにきての20倍。

 大昔のワークステーションだと、大きなハードディスクがあって、メモリをシークしていました。コンピューターの設計はその延長で行われていましたが、本来であればHDDと今のSSDは、特性がものすごく違うものなんです。

山路:
 ユーザー側は、CPUのアーキテクチャ【※】などが根本的に変わっても、意識しないんですかね?

※アーキテクチャ
コンピューターの設計方法や設計思想。またはシステムの構造・構成を指す。

小飼:
 実はかなり変わっているんです。例えば、スマホとか使っているときは、ファイルは意識しないでしょ? ですが、中のOSは、普通にディレクトリ【※】を切っており、ファイルを転がしているんです。

※ディレクトリ
ファイルデータを管理する概念・部分を指す。階層構造になっている。

山路:
 メモリの設計が変わると、OSの設計やアプリの作り方、ユーザーインターフェース【※】にまで影響してくるんですか?

※ユーザーインターフェース
コンピューターと使用者間で情報をやりとりするための方法、操作、表示といった仕組み。

小飼:
 かなり影響はします。しかし、せっかく新しい物が出てきても、なぜ単に高性能な古い物と同じように作っているかというと、ソフトウェアを作る人たちの“慣れ”の問題もあるわけですよ。

山路:
 メモリとかのアーキテクチャが違うと、プログラムの作り方も変わってきてしまう可能性もある。

小飼:  
 考え方を変えるのは、かなり大変なことなんです。

以前からあった「メモリ遠くなる問題」

山路:
 この10年20年くらいの間で、アーキテクチャを全然違うものに変えることは、あり得なかったんですか?

小飼:
 商売まで考えると難しい。実は「こういうふうにすれば、ずっと速くなるだろう」という提案は昔からあって、例えば1983年に最初の設計図が出てきたコネクションマシン【※】というのがあるんです。初代Macとそんなに変わらないころから、「メモリ遠くなってない?」という問題意識はあったんですよ。

※コネクションマシン
スーパーコンピューターのシリーズ、その名称。1980年代初頭に開発、製品化された。

シンキングマシンズ社のコネクションマシンCM-1(画像はWikipediaより)

山路:
 しかし、30年以上前からそういったアーキテクチャあったけれども、なかなかその技術が追いつかなかった?

小飼:
 いや、商売が追いつかなかった。

山路:
 必要性は強く望まれていたんですね。

小飼:
 段階的な変革であれば、業界も追いついていくのは楽なわけです。

「コンピューター、買ってください」

山路:
 今後どんどんIoTデバイスも高度化していったときに、今のアーキテクチャのまま進んでいってしまうと、今回の脆弱性の影響を受けるIoTデバイスは、どんどん増えてくることもあり得るでしょうか?

小飼:
 根本的に高速性と省電力は、互いにトレードオフの関係にあるものであり、さらにセキュリティもこれまた相反するわけです。だから、速度のことを捨てて、キャッシュを全クリアにすれば、この問題は全部なかったことにできます。

山路:
 そうなると、結局ユーザーが満足できない結果になっちゃうわけなんですよね。今後、コンピューターを持つのは控えたほうがいいんでしょうか?

小飼:
 コンピューターを持っていると、もしかしたら脆弱性にやられてしまうかもしれない。でも、お願いです、買ってください。

小飼:
 たしかに最も安全な方法は、コンピューターを使わないことかもしれない。しかし、そうなるとキャッシュレスもあり得ないわけで、現金を強奪されるリスクを放置しているだけのことじゃないですか? だから結局、新しいリスクを新しくしないことによって避けるのは、古いリスクを放置しておくのと同じなわけです。

山路:
 対策を練るためのことも行われなくなるわけですもんね。

小飼:
 ですから、ちゃんとみなさんが物を買って、市場を回し、新製品が出しやすくなるサイクルを続けていくことが大事だと思いますよ。

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