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『ダンケルク』etc…アカデミー賞候補に実話モノが増えた理由を評論家が解説「実際に起こった事は映画化しやすい」

 『WOWOWぷらすと』では、「ジャーナリズムとエンターテイメント」と題して映画評論家の松崎健夫さんがオリバー・ストーン監督らの作品を取り上げ、MCを務める落語家の立川吉笑さん、ぷらすとガールズの笹木香利さんに、なぜアカデミー賞では実話モノが多くとりあげられるようになったのかという話題をきっかけに、エンターテインメントが描くジャーナリズム映画の世界を解説しました。

左から笹木香利さん、松崎健夫さん、立川吉笑さん。

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『ダンケルク』はジャーナリズム映画?

松崎:
 社会派のドラマって実際のことをモデルにしているとかで、実際のことを描いているわけではなかったりします。

 ジャーナリズムとして描いているというのは、たとえばテレビ局とか新聞社、雑誌社が主人公が働いている場所となっていて、彼が実際にあったものを究明していくというふうになっているのが、まず第一に挙げられると思います。

 もう一つは、ドキュメンタリーとして描きたいんだけど、ドキュメンタリーでは一番にそのときに起こったことを記録しないといけない。

 事件は再現しないと描けないので、エンターテイメント的な視点を残しながら、実際にあったことはこういうことじゃないかなと、ドキュメンタリーと同じに見せようとしているものをジャーナリズム的な視点を持ったエンターテイメントというふうに思ったらいいと思います。

立川:
 そういう映画作品はたくさんあるのですか。

松崎:
 もちろんたくさんありますよ。ですが昨今のアカデミー賞の作品賞はどんどん実話のものが増えてきている傾向があります。

 なぜかというと、ネタ不足だといわれていて、その中で実話というのはニュースなどで報道されていて、ある程度みんなが知っている。つまり原作を読んでいるのと同じくらいの情報量があると考えられる体で映画化されやすいんです。

立川:
 たとえば『ダンケルク』とかは、実際に起きたことだけど、これはジャーナリズム映画とは違うんですか。ドキュメンタリー的なものになるのですか。

画像は『ダンケルク ブルーレイ&DVDセット(3枚組) [Blu-ray]』Amazonより。

松崎:
 区切りが難しいのですが、『ダンケルク』だけを見ると、これはジャーナリズム映画というより戦争映画としか見られません。しかし『ダンケルク』というもの自体をいろいろな視点から見ると、ジャーナリズム的に見られる面があるんです。

 『人生はシネマティック!』という映画があるのですが、ダンケルクの出来事があって、そのことをイギリス政府は利用して戦意高揚映画として作って、それをイギリス国民に見せようとするという話を描いた映画なんです。

画像は『人生はシネマティック!』Amazonより。

松崎:
 そのときに映画の脚本を書く主人公の女性が助けた双子の姉妹がいて、話を聞くと実際に自分が聞いている話と本当のことが違っていて、これを映画にするのはどうなんだろうと悩むんです。

 ダンケルクの歴史的な事実があって、それを丸々事実として描いたのがクリストファー・ノーランが監督した『ダンケルク』で、違う視点から描いた『人生はシネマティック!』という映画もある。

 さらに、ダンケルクは1950年代や60年代にフランスとかイギリスで何度も映画化されているんです。フランス版の『ダンケルク』はフランス側の視点です。

 さらに50年代に作られたイギリス版の『ダンケルク』は歴史的な流れは一緒なのですが、何が描かれているかというと、彼らをどう送り出すかという、イギリスに住んでいる人たちのことが描かれているんです。

 こういうふうに、映画というのは一つの出来事をそれぞれの視点から見ることができるので、観客側がジャーナリズム的な視点を持つということができるんですね。

同じ事柄を描いているのに視点が違うと全然違う

松崎:
 僕はAKB48グループのドキュメンタリー映画が優れていると思うのですが、ドキュメンタリーというのは基本的に予算がなくて作るものなので、カメラは1台ないし2台です。

画像は『DOCUMENTARY OF AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る? スペシャル・エディション(Blu-ray2枚組)』Amazonより。

松崎:
 ところがAKB48グループのドキュメンタリー映画は、総選挙のときとかは、それぞれのグループの撮影クルーがカメラを回しているんです。

 そうすると、あるAKB48のドキュメンタリーにはメンバーが総選挙の中で陥落していた。他のグループが上位に入っていて、AKB48は大丈夫か? という話になっていました。

 そのとき、別のグループではメンバーたちは躍進したというふうに、同じ事柄を描いているのに視点が違うと全然違うことを描いているということが、ドキュメンタリーの中でできているんです。
 
スタッフ:
 観客も複眼的に見ないと、事実を描いたエンターテイメントというものは、なかなか近寄りがたいですね。

松崎:
 オリバー・ストーンが『JFK』という映画を作って、陰謀説があったんじゃないかと描いているのですが、当時大ヒットしました。しかしこれが本当かどうかなんてわからないんですよ。

画像は『JFKディレクターズ・カット/日本語吹替完声版』Amazonより。

松崎:
 他の作品もあって、『JFK』ができる20年ほど前に『ダラスの熱い日』という映画が作られているんです。

画像は『ダラスの熱い日』Amazonより。

松崎:
 二つの映画の解釈は全然違うわけです。どちらの作品もインタビューを重ねて緻密に作られているんだけど、ジャーナリズム的な面で見たときには、オリバー・ストーンの映画は主観的な考え方が入りすぎではないかともいわれています。

 ですから映画というのはジャーナリズム的な視点が本当に必要なのかという議論がありますね。

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