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「映画が始まって2、3分でゴジラが出てくる。本当にテンポがいいんだ。」――『シン・ゴジラ』地上波放送・解説議事録

“特撮赤ペン先生”の目から見たゴジラ描写

岡田:
 蒲田くん【※】は、ボディのサイズに比べて皮膚が揺れすぎているんだ。CGで生物感を出そうとしてがんばりすぎていて、なんかダイエットに失敗して、皮がタルンタルンになっているやつみたいに見えちゃう。エラの部分とかはタルタルしていてもいいんだけれども、生物の身体には軟らかいところと硬い部分があるからちょっとウザい。

 

 立ち上がろうとして、またこけるという場面、肝心なところではやっぱり初代『ゴジラ』の音楽が流れるんだ。ここで蒲田くんの立ち方と足の形状が変わる。偏平足みたいだったものがつま先立ちのいわゆる“鳥足”に変わる。

 このへんの変形するところは、身体の表面にザワザワとエフェクトを入れなくてもいいと思うんだ。でも、咆哮する時の口の開き具合はすごくいい。あと、ここで入る主人公の「すごい、まるで進化だ」という素の人間っぽい感想はなかなか気持ちいいと思う。

※蒲田くん
ゴジラ第二形態の愛称。東京都大田区蒲田に被害を及ぼしたのが名前の由来となっている。ちなみに第三形態は「品川くん」。第四形態は「鎌倉さん」と呼ばれている。

 

『シン・ゴジラ』画像は公式サイトより。

岡田:
 いいゴジラの見せ方だけど、立ち上がると同時に尻尾が急に宙に浮いちゃうのは、イマイチよくない。前足の弱さと同じように、この段階での尻尾はたぶん垂れているほうが、第3形態としては正しいと思う。尻尾が急に浮いちゃうと、もうこれ以降の形態のゴジラとそんなに変わりがないんだ。

 劇中での電車の飛び方がこんなに軽いのは、半分ギャグのつもりなんだろうけど、まあ電車が出てくるほうが怪獣映画は燃えるんだ。コメントで僕のことを“特撮赤ペン先生”と言っていたけど、怪獣のシーンはやっぱりこういう見方になっちゃう。

石原さとみはミスキャストなのではなく総監督の趣味が悪い?

岡田:
 『シン・ゴジラ』の石原さとみは日本的な演技で、英語喋りなんだ。こういうことをアメリカ人の若い女の補佐官が喋るのであれば、ナメられないためにあえて感情を動かさず単調に喋るはずなんだけど、ここでは日本のドラマ的な感情を込めた演技になってしまっている。でも喋っているセリフは、英語らしい論理的で余計なことを言わない決め付け口調。

 だからチグハグに見えるんだ。どちらかに統一すればいいのに、これは完全に演出ミスだと思う。怪獣のシーンだけではなく、もうちょっと役者に対する演技指導もやれ!(笑)

『シン・ゴジラ』画像は公式サイトより。

岡田:
 「ZARAはどこ?」というセリフも、わざわざキメゼリフにしなくてもよかったと思う。でも、ああいうキャラクターを出すと決めた以上、ここらへんは言ってもしょうがない。または、ああいうキャラクターがお好みなんだったら、こういう出し方しかないでしょう。

 つまり、石原さとみはミスキャストではなくて、正しくは庵野秀明の女の趣味が悪いと言うべきなんだ、この場合は。みんな、石原さとみを責めるのはやめて、庵野の女の趣味を笑え!(笑)

ゴジラに対する”こだわり”の自衛隊描写

岡田:
 実は近代兵器と怪獣が真正面から対決シーンがある映画は珍しい。ハリウッドのゴジラ映画では、近代兵器が当たっているのに怪獣が死なないのは変だということで、あえて避けていたんだけれども、日本のゴジラというのは武器が通用しない、いわゆる妖怪とかお化けの類なんだ。

 そして顔に砲弾がどんどん当たる。この機関砲では効果が認められずないときの「機関砲」という言い方がいい。次にはさっき撃った弾とは種類の違う、明らかに口径がでかい機関砲、レベルが徐々に上がっている武器を当てている。そして機関砲の次は誘導弾、つまりミサイルだね。

 さて、そろそろなんかおかしなことになっているわけだ。機関砲はともかく、ミサイルのような質量のある兵器が直撃しながら、ゴジラがまったくのけぞらない。これはもうこのゴジラは生物ではなくお化けや妖怪の類ですから、そこら辺は気にしないようにしてくださいというやつだ。

 ゴジラというのはこの無敵さがいいのであって、ここでは生物としてのリアリティよりも、抽象的な存在として描いている。だから眼球も傷つかないわけだ。

『シン・ゴジラ』画像は公式サイトより。

岡田:
 そんなにかっこいいものではないんだけれども、使っている十式戦車の使い方も見どころだ。劇中は顔とかを狙わず、一斉に足元を狙うわけだが、弾の威力がちゃんと発揮されるように腰から下ばっかりを狙うのがいい。

 映画ではこういうとき、どうしても戦車の砲塔を上のほうに向けて顔の辺りとか胸の辺りに当てたがるんだけれども、仰角を上げると弾頭の速度が落ちちゃうんだよ。だからなるべく水平射撃に近い形で、ゴジラの足元に当てにいっているところがいいんだ。

 あと、自走砲の発射から着弾までのカウントダウンもいい感じ。この大砲は放物線状に飛ばすものだから撃ち方はいいんだけど、顔ばかりに当たっているのはゴジラの表情を見えないようにするためでもあるんだ。

 シーン内にある戦車の動きは”超信地旋回”といって、左右のキャタピラをそれぞれ逆の方向に回すことで、その場でくるっと回る動きだ。キャタピラを片側だけ回すのを信地旋回、両側を逆にして回るのを超信地旋回って言うんだけど、”超信地旋回中”でも砲塔の方向が変わらないというのが日本の自衛隊の戦車の特徴であって、それをちゃんと見せてくれているところが「やるな!」と思う。

岡田:
 新しい兵器が画面に出てくる度たび、下にテロップが出てくるところとか、この映画はなんだろうという感じを受ける。完全にかっこいい兵器映像カタログとしての映画なんだ。

 今、ハリウッドで作っている『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は、スーパーヒーローが60人以上出てくるらしいんだけど、僕は絶対にこの撮り方をした方がいいと思う。つまりヒーローがセリフを言うたびにカットを割って、下に「トニー・スターク:アイアンマン」というふうに名前を全部テロップで出したほうが、絶対にかっこよくなると思うんだ。

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