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『この世界の片隅に』は「不幸なサザエさん」 漫画家が読み解く“すず”が生きた世界

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 長編アニメ映画「この世界の片隅に」がSNSや口コミが火付け役となり、公開館数の大幅な拡大が決定した。12月14日放送の『ニコ論壇時評』では、山田玲司氏がヒットの秘密を解説。「すずは、脱・不満のヒロイン」と定義? その内容とは。


『ONE PIECE』型と『サザエさん』型

山田:
 映画って基本的に失恋から始まるんですよ。失恋もしくは事故、何かしら不幸が起こって、そこから回帰していくパターンが、映画の大筋のひとつなんだけど。とにかく「この世界の片隅に」は“脱・不満”。この作品はとにかく主人公が不満を言わない。こんな作品は見たことがない。

 なぜかというと、俺達は基本的に不満があるから映画館に行って、不満のある主人公に感情移入して、それが解決される、というカタルシスを得るんだけど、ヒロインのすずは、あれだけ不遇な状況に陥りながら、「自分はマシな方だ」と思っている。

 これは日本が失ったものなんだけど、かつてはそういうふうに生きていた、というのをわかりやすく出している。これは、『ONE PIECE』型から『サザエさん』型へはっきりと戻っている。

 『ONE PIECE』型というのは、スゲーやつがいて、バトルして、知らないやつと出会って、それから戦う直前に回想が入って、「あんな悲しいことがあったんだ」って……後付けなんだよ。基本的にずーっとこのパターンでストーリーが進む。

 でも、『サザエさん』型というのは、回想じゃなくて、日々の積み重ね。だから、毎日が進行する。本来だったら回想で描かれるべき部分を、ずっと描いている。最近そういうのなかったんじゃないかな。

サザエさんの家に不幸が起きたら?

乙君:
 でも、『サザエさん』型は年を取らないですからね。

山田:
 よくさ、「もしサザエさんの家に不幸があったらどうするの?」とかいう話、あったでしょ? サザエさんの家には不幸は起こらないんだけど。

 でも、ここを見事なまでに、日本人だったら世界的に誰でも知っている、ある悲劇が起こった日というのを、知っているがゆえにカウントダウンでそこに向かっていくから、この構成からして、もう大勝利だよ。

乙君:
 なるほどね。

山田:
 実を言うと、この話は冒頭が子供時代の回想なんだよね。だから、後から考えるとぼんやりとした回想から入っているんだけど、回想には見えない。だから、ここも実に上手い……。

乙君:
 結局、時間軸だったんで。

山田:
 カウントダウンの話で言うと、俺達が知っている広島というのは、いわゆる資料館的であり、はだしのゲン的であり、教科書的な広島なんだ。それは既に歴史の一部で神話化されているから、距離感があってリアリティがないところがある。

 だけど、「そこだけは知っている」というのを利用して、ボンと杭を打っておいて、その間を“知らなかった日常生活”という、知らなかったことを説明していくくだりをユーモアで描いていくところが「こんなの見たことないなあ」という感想になる。だから構成の勝利だね。

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