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究極のファンメイドか、新シリーズ復活への狼煙か 「パトレイバーREBOOT」吉浦康裕×出渕裕対談

『パトレイバー』のすべてに参加した唯一の存在

 ――なるほど。あとは川井憲次さんの音楽もよかったですね。

出渕氏:
 やっぱり『パトレイバー』に川井さんの音楽は外せないという。

吉浦氏:
 すべての『パトレイバー』に関わられていますよね。

出渕氏:
 ヘッドギア【※】のメンバーはすべての『パトレイバー』にじつは関わっていないんですよ。誰かしら欠けている。でも唯一すべての映像化に関わっているのが川井憲次なんです。だから川井さんが関われば『パトレイバー』になってくれるという(笑)。

※ヘッドギア
ゆうきまさみ、出渕裕、高田明美、伊藤和典、押井守からなる「パトレイバー」の原作者ユニット。

吉浦氏:
 僕もずっとファンとして川井さんの音楽も好きだったので、早い段階から自分で声を当ててコンテムービーを作って「ここで音楽が入って盛り上がって、ここで落とす形で」とお願いしたら、本当にバシッと音楽が上がってきて、しかも川井節ですごく嬉しかったんですよね。

出渕氏:
 その曲はあえて予告で使わなかったんだよね。本編に取っておいて。じつは予告は吉浦監督が忙しかったんで、俺が編集やったんだけど(笑)。

吉浦氏:
 そうなんですよ。

出渕氏:
 「過去のどの曲が使えるかな? ブロッケンのやつ(初期OVAアーリーデイズ/VOL7)が尺的にもいいかな?」ってやったらうまくきっちり入ったから。

「ぼくのかんがえた『パトレイバー』」がホンモノに。

 ――今回ほかに出渕さんの具体的な関わり方は?

出渕氏:
 プロデューサー的な企画の大本というのがひとつと、あとは監督や制作から相談があれば。

吉浦氏:
 そうですね。本当に困ったときにすっと言ってくださるアドバイスがめちゃくちゃ助かりました。例えば事件が終わったあとで時間経過をどうやって表わそうかというときに「警察無線とか入れてクロスオーバーさせたら?」というご意見とか。

出渕氏:
 「(警察無線は)録って置いたほうがいいんじゃない?」という話はしましたね。何かちょっと足りないところがあったら効果音(SE)代わりにも使えるし。

吉浦氏:
 あとは演出面では、イングラムが(リボルバーカノンを)バンと構えるじゃないですか。そのあとにスズメが飛んでくるのは出渕さんのアイデアで「それは使える!」と思って。

出渕氏:
 ここは尺がちょっとあるし、緊張感のあとでシーンとしたまま「チュンチュンチュン……」と来る演出のほうが『パトレイバー』っぽいかなと。

吉浦氏:
 ちょっと牧歌的でなんか『パトレイバー』っぽいですよね。ほかにも「こういうときに出張ってくるのは所轄の警察だけど(制服ではなく)活動服を着てるんだよ」とか知識面でも助けていただいたり。

出渕氏:
 駅でも最初は警察のサイレンだけだったんですけど、キャリアを牽引しているのが昔の牽引車なので、ピーッて警笛も入れたほうがわかりやすいかなって。その警笛があって普通の電車が来るのかなと思ったらとんでもないものが来ました、という流れとか。

吉浦氏:
 今回、言ってしまえば最初はファンがよくやる「ぼくのかんがえた『パトレイバー』」だったんですよね(笑)。でもすごくありがたいことに出渕さんたちはそれを良しとしてくださった上で……。

出渕氏:
 まあ、本物印をボンと(笑)。

吉浦氏:
 バックアップしてくださって、ファンとしてはこれ以上ないぐらいの幸せな作り方をさせていただいて、本当に感謝しています。

出渕氏:
 伊藤さんもクレジットでは脚本として連名になっていますけど、(吉浦氏の)構成を変えているわけではなくて「セリフはこういうふうに言ったほうが『パトレイバー』らしいよ」という微調整をね。

吉浦氏:
 そうですね。伊藤さんが最後にセリフ回しをリライトしてくださったんですよ。もともと『パトレイバー』って掛け合いが自然だったじゃないですか。伊藤さんの修正でさらに自然な会話になった感じなので、僕はまだまだだと思いました。
 予告編でも使われた浄土真宗のくだりは最初僕が書いたのは「実家が浄土真宗ですけど、わかりました」というちょっと中途半端なセリフだったんですよ。それが伊藤さんが直すと「実家が浄土真宗なんですけど、大丈夫ですよね?」という確認になって、これだけですごい変わるなと思って。勉強になりました。

 ――伊藤さんのご感想は?

出渕氏:
 満足してると思いますよ。楽しんで見てくれてる。

これを作り切れば自分のトンネルを抜ける!

 ――吉浦さんにとって今回のお仕事はひとつの転機になったんじゃないですか?

吉浦氏:
 監督生命も今回の企画のおかげで延びたと思います(笑)。じつはこれをやる前までは「このままでいいのかな?」という期間が長かったんですよ。作品を作ってはいたんですけど、「アニメミライ」【※】に参加して(『アルモニ』を)作ったときに「あ、この方向性で作り続けると俺の監督としての未来がない!」と同時に思ったんです。
 それで「見本市」で意図的に全然違う作風の怪獣ものやコメディを作って、試行錯誤していたときに「『パトレイバー』やるかもしれないんだよね」というお話を聞いて、0.5秒で「あ、これだ!」と思って「お願いします!」と。これを作り切れば何か自分のトンネルを抜けるんじゃないかと思って、作った結果、まさにその通りになりました。

※アニメミライ
2010年度から始まった文化庁によるプロジェクト。オリジナル短編制作を通じて若手アニメーターの育成を行なう。吉浦の監督作『アルモニ』は2013年度の作品。現在は「あにめたまご」と改称。


 ――『パトレイバー』以前の試行錯誤をもう少し聞きたいんですけど、ここ数作ではどういうトライアルがあったんですか?

吉浦氏:
 『アルモニ』はリアルな室内劇をもう1回ちゃんとやりたいと考えがありつつ、新海誠さんが昔やっていたゲームのムービーみたいな、ああいうキャッチーなサブカル好きのする映像を作るチャレンジではありました。その次の怪獣ものの『PP33』ではいい加減「地味な会話劇の単館系の人」と言われるのが嫌になって(笑)。

 ――(笑)。

吉浦氏:
 ド派手なことをやりたかったんです。でもいきなり例えばトリガー【※】さんの作品のようなことはできないので、自分の得意技を考えると立体的な空間で巨大感を出すことと、撮影処理は自分でやれるので、巨大怪獣をBOOK処理【※】で動かせるんじゃないかと。で、その次の『ヒストリー機関』はどれだけ笑わせられるのかな、と。
 そのあとで『パトレイバー』のお話をいただいたときに、日常にSFの要素が混在していて、特撮的なアングルでロボットが戦って、しかもキャラクターが笑いの要素のある掛け合いをすると。これは全部ここ数年の自分がやってきたことで、しかも『パトレイバー』は誰にも負けないぐらい何度も繰り返し見てきた自負があったので、ドライブ状態のまま一気に作り切った感じです。

※トリガー
アニメ制作会社。代表作に『キルラキル』、『リトルウィッチアカデミア』など。

※BOOK
背景美術の技法で描かれた前景素材を指す。『PP33』ではBOOKを多数重ねることによって巨大怪獣のゴツゴツした表皮を表現している。

出渕氏:
 (笑)。いやー、それがよかったんじゃないですか。

吉浦氏:
 作ってる最中は劇場版の1作目も2作目も見てないんですよ。見ると冷静になっちゃうので。

 ――試行錯誤していた時期すら、この作品のためにあるような。

吉浦氏:
 作っている最中は麻痺してたんですけど、作り終えて発表された瞬間のTwitterの反響がデカすぎて急にテンションが落ちて「やべえ……!」と思って。そこから公開まで2ヶ月間、ずっと被告人席に立ってる状態で。

 ——(笑)。

吉浦氏:
 公開日の朝の上映回が終わったタイミングにエゴサーチするまで不安だったんですよ。けど、やっと救われました。あと、(関係者試写で)出渕さん、伊藤さん、ゆうきさんに見ていただいて、楽しんでいただけたときも「よかった……」と思いました。カラーの内部はみんな制作スタッフだから、感想とかは言ってくれなくて、映像チェック後も無言で部屋を出ていくんです(笑)。でも庵野さんが「よかった」と言ってくれて、そのときは結構救われましたね。

 ――出渕さんはキャリアを振り返って、吉浦さんが言ったような試行錯誤の時期などはあったんでしょうか?

出渕氏:
 それは結構ありますよ。『ラーゼフォン』【※】で監督をやる前のタイミングにしても、デザイナーとしては何を描いても結構出きっちゃってるよな、という時期もあったし、「この先、俺はどうしていくんだろう?」みたいなことを漠然と考えたことは、それはありますよ。ずっと順風満帆で何の悩みもなく行く人はいないんじゃない? 人生いろいろあるでしょう。いろいろあるから逆に楽しいし、やったおかげで自分のビジョンを再発見できたりしました。

※ラーゼフォン
出渕裕監督によるSFロボットアニメ。2002年発表。後に劇場版も制作された。

リブートやリメイクは元の作品を好きだった人がやるべき

 ――出渕さんは『宇宙戦艦ヤマト2199』でご自身がファンだった作品のリブートを経験されたわけですが、今回リブートを行った吉浦さんを見守る立場になっていかがでしたか?

出渕氏:
 リブートやリメイクは元の作品を好きだった人がやるべきで、吉浦さんはまさに適任というか、やってもらって本当によかったと思います。だってもし「『パトレイバー』ってよく知らないんですけど……」って人がやるってなったら、そりゃあ怖くて任せられないじゃん!

吉浦氏:
 (笑)。ありがとうございます。作業はだいたい半年ぐらいだったんですけど、この期間、もっと緊張するかと思ったら、楽しくてしょうがなくって。ヘッドギアのみなさんに最初にご挨拶させていただいたときに、手渡してくださる感じがすごく大きかったんですよ。それで僕もほっとしたというか、肩の力を抜いて作ることができたので「自分もいつか業界の先輩になったら絶対にこういう立ち振る舞いをしたい!」と思いました。

出渕氏:
 やってて楽しいのが一番なの。仕事としては苦しいときもあるんですけど、楽しいと思ってやれている仕事は多分ちゃんと実を結ぶし、いい形になりますよ。

 ――出渕さんとしては『パトレイバー』にいい娘婿が来た感じですかね?

出渕氏:
 面白い表現をするねえ(笑)。でもそういうことかもしれないですよね。家督を継がせるみたいな感じ? 僕もひさしぶりにイングラムをリファインできてよかったです。今回自主的にやらせてもらったんだけど、どうしても昔のデザインでは逃げてた部分があるんですよ。土木機械だからディテールなんかも本来はなければいけない部分があるんだけど、アニメーターがメカを手で描いて動かす時代には描き込めないところがあるわけですよ。外観はまだいいんですけど、例えばリボルバーカノンが出てくるところの内側とか今回かっちり描けたからね。ちょっとしか出ないところだけど。

10月15日・公開初日舞台挨拶より

吉浦氏:

 今回見上げるアングルが多いので、肩パーツの内側とかバイザーの上側とか、作ってて「あ、ここが足りない」って出てきたときに、ありがたいことにその場でパッと描いてくださったりして。

出渕氏:
 手描きだと黒塗りにしたりしてごまかせるんですけど、3DCGは逃げられないんですよね。ブルドッグの肩アーマーの裏とか。あとで見て「ここ、もしかしたらバレるかもね……」っていうところを更に足したり。

吉浦氏:
 手のディテールもアップ用に描いていただいたりしたので。

出渕氏:
 そういう意味では止めて見るとね、面白いかもしれない。いろんなディテールも楽しめると思いますよ。

吉浦氏:
 CGの部分はいくらでも止めていただいて結構ですからね。

 ――2号機のメンバーも気になりますね。

吉浦氏:
 2号機のメンバーや整備員だったり、あとの設定に影響しそうなところは今回できるだけ省いているんです。どうとでもなるように。

出渕氏:
 2号機も以前のように太田(功)が壊したから違うフェイスになってるんじゃなくて、1号機と同じフェイスにしてほしいというオーダーはありましたね。

吉浦氏:
 そこでどうしても物語ができちゃうんで、とりあえず今のところは止めておこうと思って。

 ――これが成功したら次はどうするんですか? 「責任取ってね」という感じなんですけど(笑)。

吉浦氏:
 (笑)。

出渕氏:
 皆様のお声があればね。その時はリスタートになるんで我々も関わる感じだとは思いますが、良い御縁というか娘婿(笑)ですから「吉浦さん、そのときはよろしくお願いしますね」という感じです。

※『機動警察パトレイバーREBOOT』、2017年2月28日まで無料公開中

patolaborreboot
日本アニメ(ーター)見本市・機動警察パトレイバーREBOOTサイト

※10月15日の公開初日舞台挨拶の様子はコチラ
「ファンとしてこれ以上ない幸せな作り方をさせていただいた」パトレイバーREBOOT公開記念の舞台挨拶書き起こし

 

機動警察パトレイバーREBOOT

特装限定版Blu-ray(発売中)

【映像特典】
・英語字幕版 ・劇場予告編 ・BGM収録風景映像 ・スタッフ座談会
吉浦康裕(監督・脚本)×出渕 裕(メカニカルデザイン・監修)×伊藤和典(脚本)
【音声特典】
・スタッフオーディオコメンタリー
1)吉浦監督×浅野直之(アニメーションキャラクターデザイン・作画監督)
2)吉浦監督×松井祐亮(CGI作画監督)
3)吉浦監督×金子雄司(美術監督)

特 典
・サウンドトラックCD/川井憲次による本作BGMをすべて収録
・コンテ・設定集(56P)
吉浦康裕によるコンテと、浅野直之・出渕裕による設定画をすべて収録
・縮刷版アフレコ台本(44P)・三方背アウターケース

【仕様】
BCXA-1191/カラー/(本編8分+映像特典40分)/リニアPCM(ステレオ)/AVC/BD25G/16:9<1080p High Definition>・一部特典映像16:9<1080i High Definition>/字幕(日本語)切り替え


DVD(発売中)

【映像特典】・英語字幕版 ・劇場予告編 ・BGM収録風景映像
・スタッフ座談会
吉浦康裕(監督・脚本)×出渕 裕(メカニカルデザイン・監修)×伊藤和典(脚本)【音声特典】
・スタッフオーディオコメンタリー
1)吉浦監督×浅野直之(アニメーションキャラクターデザイン・作画監督)
2)吉浦監督×松井祐亮(CGI作画監督)
3)吉浦監督×金子雄司(美術監督)
BCBA-4805/カラー/48分(本編8分+映像特典40分)/ドルビーデジタル(ステレオ)/片面1層/16:9(スクイーズ)/ビスタサイズ/字幕(日本語)切り替え

発売・販売 バンダイビジュアル株式会社

【スタッフ】
原作:HEADGEAR
監督・絵コンテ・演出・撮影監督・編集:吉浦康裕
脚本:伊藤和典・吉浦康裕
キャラクター原案:ゆうきまさみ
アニメーションキャラクターデザイン・作画監督:浅野直之
メカニカルデザイン:出渕 裕
CGI作画監督:松井祐亮
CGI監督:小林 学
色彩設計・色指定・検査:中内照美
美術監督:金子雄司
音楽:川井憲次
音響監督:山田 陽(サウンドチーム・ドンファン)
監修:出渕 裕
企画・エグゼクティブプロデューサー:庵野秀明
アニメーション制作:スタジオカラー
キャスト:山寺宏一/林原めぐみ

(C)HEADGEAR/バンダイビジュアル・カラー

【公式サイト】 http://www.patlabor-reboot.jp/

 

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