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究極のファンメイドか、新シリーズ復活への狼煙か 「パトレイバーREBOOT」吉浦康裕×出渕裕対談

『パトレイバー』の良さは全部乗せ!

吉浦氏:
 もうひとつ『パトレイバー』のアニメを演出するにあたって逃れられないのは、レイアウトですよね。空間設計も画力ではなくCGでなんとか太刀打ち――できているかはまだ分からないですけど――してる感じなんですよね。今回とくに家屋の密集地帯で、しかも平坦ではなく大小のビルの合間で戦うときに、CGによるレイアウト設計がすごく役に立ったし、昔の作品に肩を並べるための手段として非常に役に立ちましたね。
 絵コンテを描いたあとでCGモデラーと一緒にロケハンを繰り返して、通りを全部(3DCG)モデルに起こしたんです。で、作打ち(作画打ち合わせ)をする前に自分でアングルとレイアウトを決め込んで、作画さんとCGスタッフに同じものを渡して「基本はこれに合わせて動かしてください」という作業ができたので、そこはすごく効率がよかったです。

 ――今回アングルは人間の目線で見上げているんだけど圧迫感があって、その感じが新しいなというか。

吉浦氏:
 「見本市」でも『PP33』の時にやったんですけど、もともと『イヴの時間』とかでもずっとCGレイアウトで部屋を組んで、会話劇ばっかりしてきたんですよ。それが特撮的な見せ方にも応用できるようになって、結構ケレン味のある演出が自分にもできそうだなと思い始めていたタイミングだったので、じゃあ『パトレイバー』も特撮みたいに撮ればいいんだ、と考えられた瞬間にうまく行った感じですね。

出渕氏:
 感覚だけでレイアウトを組み立てていると、大きさとかに嘘が結構多くなるんですよ。とは言えリアルなら良いというわけではなく、気持ち良さに必要な嘘は必ず出てくるわけです。だから今回の吉浦さんのレイアウトは、基本の大きさはキチンと全部CGで割り出した上で「ここはもっと大きく見せたいな」というのは、あえてちょっと嘘をついてる。映像としてそのやり方で全然正しいし、気持ちいいレイアウトだったと思いますよ。あと、「あ、こういうのを吉浦さんは見せたいんだな」というシーンは結構ありましたよね。レイバーのキャリアを山手線で載せて行くとか。あれも本当は理屈で考えるとね。

吉浦氏:
 絶対に載らないですね(笑)。

出渕氏:
 レイバーキャリアってじつはすごく車幅があるから、線路の幅を考えると載らないけども、やりたいんならやりましょうと。その(キャリアが線路に載っている)カットだけなら勢いでごまかしも利くからね。あとは打ち合わせで話していてピンと来たのは、要は『パト1』(『機動警察パトレイバー劇場版』)の序盤のタイラントの暴走シーン的な絵なんだなと。あれってある意味この世界のスタンダードですから。それを今見せるならこうなります、という感じで。

吉浦氏:
 まさにそうですね。劇場版1作目のあのシーンが『パトレイバー』を自分がひとつ切り抜くとしたらここだ、という場所だったので。

出渕氏:
 正味7分ぐらいの作品だから、ロケーションも一点集中で作れるじゃないですか。尺が長い作品でいろいろな場所を、となると作業のカロリーがどんどん高くなっちゃうんですけど。

吉浦氏:
 ただ、ワンシチュエーションものではあるんですけど、『パトレイバー』たる要素は全部入れ込もうと思っていて。短編だけど物語があって、キャラクターも立ってて、メカも活躍して、世界観も描いている。かつ、どうしてもやりたかったのは『パトレイバー』を知らない人が見ても普通に楽しめるものにしたかったんです。「こういう面白いアニメがあるんだ」と思ってもらって、それをきっかけに昔のシリーズを見る人を増やすのが目標だったんですよ。

 ――そこは劇場版1作目の娯楽の王道を征くという、かつての目標に近いですね。

吉浦氏:
 かぶりますね。『パト1』はレイバーの立ち位置とか、キャラクターの紹介もさりげなく挟んでいるじゃないですか。ああいう作りにしたかったんですよね。『~REBOOT』と名乗ってキャラクターを変えた以上、「キャラ変わったからこれ『パトレイバー』っぽくないじゃん」と言われるのだけは絶対避けたかったのでそこはがんばりましたし、出渕さん、伊藤さん、ゆうきさんにもバックアップしていただいたので、より本物になったなと。そういう体制で作らせていただいたのは本当にありがたかったです。

ゆうきまさみ作品からインスパイアした新キャラたち

出渕氏:
 すばらしかったですよ。最初にこの『パトレイバー』の映像化の企画をもらったときはね、尺も短いしキャラクターをガッチリ描くのは諸々難しいかなと思っていて。だから例えば3D CGで荒牧(伸志)さんがやられたやつみたいに、キャラクターを出さないでイングラムだけで動いたらこうなりますよ、みたいなフィルムなら実験的にできるのかな、ぐらいに思ってたんですよ。

吉浦氏:
 フルCGのエヴァ【※】みたいな感じですか?

※フルCGのエヴァ
日本アニメ(ーター)見本市で発表された『evangelion:Another Impact(Confidential)』(荒牧伸志監督)のこと。

出渕氏:
 そうそうそう。ああいうやり方もアリかなと思って、直接荒牧さんにも聞いたことあるんだけど、やはり手間がかかるし、ちょっと難しいかなあと思ってたら、プロデューサーの緒方(智幸)君から「実は吉浦さんが手を挙げてくれています」と。お話を聞いたら意外にも直球ストレートな感じで、イングラムをそのままやりたい、キャラは新しくすると。まあ、主役メカは同じでキャラは変えちゃうのか、という異論もあるかもしれないですけど、『パトレイバー』って時間がちゃんと流れている作品なんです。つまりもうあれから20〜30年近く経った世界なわけで、都合よく昔の(泉)野明とか後藤(喜一)がそのままの姿でまたポンと出てくるわけにはいかないんですよね。だから彼らは歳を取っているから新しい隊員で、というのは自然な流れで。

吉浦氏:
 ファンとしては当時のメンバーのその後を描くのはアリなんですけど、前回の『WXIII』(『WXIII 機動警察パトレイバー』)から14年ぶりのアニメ化はすごく大事なチャンスで、僕としては一番未来のある作り方としてリブートさせたくて、やっぱり『パトレイバー』の魅力って新人隊員がドタバタするところかなと思ったので。まあ、今しゃべればしゃべるほど、よく「全部新キャラにしたい」と提案したなと冷や汗ものですけどね(笑)。

出渕氏:
 いや、でも吉浦さんから提案されなくても、おそらく俺も「キャラは一新したほうがいいよね」と言ってたと思いますよ。

吉浦氏:
 あ、そうですか。

出渕氏:
 前から漠然と考えていたのは、前の第2小隊と新しい隊員の立ち位置は逆にしようと思って。男のキャラは女にして……っていう。そしたら吉浦さんから来た案がまさにそうだったから「もうこれで行きましょうよ!」って(笑)。あと今回の新キャラはイメージをゆうきさんのマンガから引用してるんですよね。最終的にはゆうきさんがラフを描いてくれてるんですけど。

吉浦氏:
 全部引用してるんですよ。最初にゆうきさんに説明するときにも「このキャラのイメージに近いです」と一緒に説明して。主人公は『(鉄腕)バーディー』の千川つとむで。

出渕氏:
 千明(和義)じゃなかったっけ?

吉浦氏:
 最初は千明だったんですけど(「見本市」では)山寺(宏一)さんが声をやることを考えると千川君になって。

出渕氏:
 で、隊長が『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』の長女のお姉さん。

吉浦氏:
 渡会あぶみさん。で、バックアップはちょっと絵は変わっちゃいましたけど『究極超人あ~る』の天野小夜子ですね。

【主人公のモデル】千川つとむ『鉄腕バーディー』(ヤングサンデーコミックス)より

【隊長のモデル】渡会あぶみ『じゃじゃ馬グルーミン☆UP!』(小学館文庫)より

【バックアップのモデル】天野小夜子『究極超人あ~る』(小学館文庫)より

(C)ゆうきまさみ

 ――吉浦さんにとって、ゆうきさんのマンガというのは?

吉浦氏:
 大好きですね。いろんな媒体で展開された『パトレイバー』のなかでもどれが好きかと言われたら、しいて言えばアニメの劇場版1作目か、ゆうきさんのマンガ版かというぐらいです。ゆうきさんのマンガ自体もいまだに読者ですね。

出渕氏:
 僕も今(マンガ版を)読み返してるんです。面白えんだ、これが(笑)。改めて読むとむちゃくちゃ面白い。よくできてる。

『おそ松さん』の浅野直之のデザイン手腕


 ――『パトレイバー』では、ゆうきさんのマンガ版のテイストをアニメ化する試みなど、まだ手付かずの部分がたくさんありますよね。

吉浦氏:
 今回は当初からゆうきさんの絵でやりたい、という話はあって。

出渕氏:
 (企画・エグゼクティブプロデューサーの)庵野(秀明)君の一番大きい要望が「やるんだったら、ゆうきさんの絵でやってほしい」というものだったんです。彼のなかでは『パトレイバー』は初期OVAのオープニングの絵柄が一番よかったみたい。北久保(弘之/アニメーション監督・アニメーター)君がやったやつ。でもじつはあれね、タイミング的にまだゆうきさんが『パトレイバー』のマンガ連載を始める前に作ってたんで、参考にしたキャラはみんな『究極超人あ~る』からなんですよ。

 ――そんな裏話が!

吉浦氏:
 今回のメインキャラに関しては、昔のゆうきさんの絵柄よりはいまのゆうきさんのちょっとソリッドな感じにしてるんですが、モブ(群衆)キャラに関しては出渕さんの助言もあって、ゆうきさんのマンガのいろんなコマに出てくるモブキャラを全部コピーで取り出して、そこから当て描きしてるんですよ。

出渕氏:
 それが一番効率的かなと。

吉浦氏:
 今回モブも多いですからね。モブって世界観やクオリティが出るので、適当に描かずにゆうきさんのキャラとしてしっかり描いた方がいいなと。

出渕氏:
 ちゃんとゆうきさんのキャラだから、すごい統一感があるんだよね。

吉浦氏:
 そうなんですよね。そこは作りながら「なるほど」と思いましたね。今回キャラクターデザイナーと作画監督が決まったのは後からだったんですけど、僕と同い年の浅野直之さん――『おそ松さん』で有名ですけど――の今までのお仕事履歴を見て、その瞬間に「あ、いけるな」と思ったんですよ。浅野さんは昔のレトロな部分と今風のキャッチーさを融合して、いいところに落とせるデザインを描ける方だったので、そこは本当に彼のデザイン力ですよね。

 ――アニメで動かす場合、ゆうきさんの絵柄ってどうなんですか?

出渕氏:
 ゆうきさんのキャラって描きやすいんだと思うよ。マンガ的なキャラに見えるんだけど、骨格がしっかりしているので立体栄えするというか。表情の付け方もデフォルメしてもきちんと骨格があるデフォルメなんですよ。

吉浦氏:
 デッサンが整ってますよね。今回作監の作画机にコンビニの廉価版の『パトレイバー』のコミックが大量に置いてあって「あ、この刊のキャラ描いてるんだ」と思って。ゆうき先生って顔のバリエーションがすごく多いですよね。

出渕氏:
 すごく多い。モブがうまいの、あの人。劇場版の1、2、3作目も、コンテに合わせてゆうきさんにモブのラフを描いてもらってるんですよ。(監督の)押井さんもゆうきさんのそのモブに関しては「欲しい」って言ってたもん。

吉浦氏:
 あと浅野さんがうまいのは、完コピではなく一度自分のなかに落とし込んで、描き出すときにうまい具合にゆうきさんの絵っぽく見せるのがうまいんですよね。今回驚き顔とか泣き顔とか、ゆうきさんっぽいところもあれば、全然違うところもあるんですよ。でも全然違うところも意外とすっと見れちゃう。

出渕氏:
 バックアップの子が「隊長ー!」ってやるところとかね。

吉浦氏:
 ですね。その辺は浅野さんが外さないアレンジを加えているんですよね。だからゆうき先生の絵を使えたのと、浅野さんに参加してもらえたのがかなり勝因ですね。

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