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「アニオタで圧力団体を作ればいい」 政治はアニメ業界の危機を解決できるのか

ゆとりのある上の世代が下の世代を育てるという回路になってない

吉田:
 ちなみに宇野さんは?

「PLANETS」編集長 宇野常寛氏

宇野:
 問題はふたつあると思うんです。ひとつはお金の取り方。今ずっとコメントで「円盤ビジネス」、いわゆる映像ソフトを売ってリクープしていくっていう発想は古いんじゃないか? これはその通りだと思う。もうテキスト、音声、映像、情報にお金を払う時代じゃもうないんですよね。だって質さえ問わなければインターネットで無料公開されているコンテンツとかいくらでもあるわけですよ。
 そんな世の中で、情報はもう供給過剰だし、そこにわざわざお金払って観るって人はほとんどいないんですよ。だから、やっぱりお金の取り方を変えなきゃいけない。さっき大坪さんの資料にもありましたけど、ライブが少しずつ増えていきますよね。

大坪:
 そうですね。

宇野:
 あとやはり「観光」ですよね。アニメを使ったコミュニケーションにみんなお金を払うんですよ。アニメ声優のライブに行くとか、聖地巡礼だとか。だから今は情報じゃなくて体験ですね。エンターテイメントの中心が、モニターの中のものから外に移ろうとしている。ここに今アニメ業界の産業がいまいち対応していない。この問題が一つ。
 で、もう一個はね。「中抜きなんて幻想だ」という人はいっぱいいると思いますけど、やっぱり僕は実質的な中抜きは多いと思います。現に考えてみてください、平均するとサンライズのヤツよりもバンダイのヤツのほうが絶対給料高いです。そしてバンダイよりも電通のヤツらの方が高いですよね。僕はこれが今起こっていることのすべてだと思っていて。
 何かね、お金で夢を見られる世界にもう少しした方がいい。もちろん「アニメを作るのが楽しい」とか、「自分の作品をものにしたい」という動機で人は作家になっていく。これは絶対に譲れない。でも、さすがにちょっと回ってなさすぎじゃないかと思います。クリエイティブ職の平均収入として見たときに、ちょっとやっぱり低いですよね。
 で、これをやっていると持続性がない。現実問題、ゆとりのある上の世代が下の世代を育てるという回路になってないと思うんです。だからここに関してはお金の配分の方法を間違っている。

MANGA議連が出来るまで、アニメ業界と省庁とが意見交換する場がなかった

吉田:
 このお話を聞いていて、どうも古屋先生と赤池先生がなにか思うことがあるみたいで。

MANGA議連 会長 自民党衆議院議員・古屋圭司氏(左)、幹事 自民党参議院議員 赤池誠章氏(右)

赤池:
 日頃、我々は各団体ヒアリングとかして実情をしっかり踏まえて、省庁を呼んで、意見交換をしながら法律的な是正とかいろんなことをやるのですが、残念ながら我が議連を除くと、アニメ業界や皆さんを呼んで、省庁と意見交換する場がない。これ是非、古屋会長のリーダーシップで、その辺を踏まえて。現状は法律的な問題、労基法から始まって、「下請法」みたいなのを色んな形で作っているんですが、そういったものとどういう形でやるのか、しっかり把握して是非その辺は意見交換したい。

古屋:
 例えば、上が下請けをボコボコに叩きまくって赤字覚悟で取らして、上が、親会社が儲けてしまうというケースがあったので、業界の人からすごく細かいヒアリングをして、それで「下請法」と言って、そういうことが出来ないように、色々泣き寝入りをさせないような法律とか、ルールをどんどん作ってきているんです。
 じゃあ今、アニメーターの皆さん、アニメ業界が本当にどういう雇用関係になっているのかとか、そういうのを正直言って僕らはよく分からないんですよ。

吉田:
 ルールを作る側の議員さんたちと、ちゃんとコミュニケーション取れば良かったけど、今まではアニメ業界側もそれをやって来なかったってことですよね。アニメの業界の人たち話しているとみんな純朴だから、「そういう話って政治家の人に話せばなんとかなるの?」って思っていない可能性が非常に高い。

古屋:
 なるんです。本当に変わるんです。

赤池:
 ちょうど今この時期やっているんです。我々「電話帳」と称して、各部会ごとに全産業からヒアリングかけて。予算と税制の要望っていうのを電話帳方式で集めて。これを集中して絞っていって、最終的に税金をどう直すか、予算どう付けるかってことを毎年やっているんです。

「年収110万円説」もささやかれるアニメーター、その実態は?

吉田:
 この現状に関して宇野さんの指摘も、大坪さんの見てきたものも、たぶんそんなに違ってない。現状、現場にお金がうまく回ってないのは確からしい。「現場が苦しい」と言うならば、どんな風に苦しいのかというのをもっと具体的に掘り下げましょう。

大坪:
 こちらはですね、「アニメーション制作者実態調査報告書2015」というものがありまして。平成26年度文化庁の、次世代の文化を創造する新進芸術家育成事業の支援を受けて、公益財団法人日本芸能実演家団体協議会、「芸団協」さんと普段我々は呼んでいるんですけれども、そちらとJAniCAが協力して実施をした調査になります。

吉田:
 その中で今日ここの議論で重要だと思うところを大坪さんに選んでもらっているので。ちょっと説明してもらっていいですか?

大坪:
 まず、全体概要からお話したいと思うんですが、調査期間は8月から9月までの2ヶ月間です。アニメ業界で働く人を対象にしています。アニメーターだけではなくて、制作進行さんから演出さんとかデスクさんとか、そういった方までです。アニメ業界で働いている方の全容っていうのは分からないんですけれども、今回に関して言うと759件の回答を頂いたということになります。
 それで調査の概要、フェイスシートって呼ばれるものなんですけれども、回答者の概要に関しては、男女比は6:4。平均年齢は34.27歳、平均年収は332.8万円と。休日はまあ、月に4日くらい、週1っていう感じですかね。

吉田:
 「休めてない」って言ったほうが良い位かもしれない。ネットでよく言われている「年収110万円説」というのがあったんですが、これってどうなんですか? 本当なんですかね?

大坪:
 一部では正しいんですが、全体として見たときの数値に関して言うと、こちらの332.8万円が全体の平均値になります。

吉田:
 ただ、本当に始めたばかりというか、制作会社に入ってやっと1年働きましたといった人の中でも、そんなに恵まれなかった人は年収110万があるかもしれないけれども、これは極端な例ですね。110万まで行っちゃう人は。

大坪:
 そうですね。職種で言うと、動画さんというか制作進行さんの若い人とか、あるいは、第二原画の若い方ですかね。

吉田:
 だから当然、会社で言うなら入ったばかりのまだアルバイトになるかどうかわからない人と、課長クラスではそれは収入違うでしょって話ですよね。でもそれが課長クラスになったから良いのかどうかという話で、そんな資料も今回はある。

大坪:
 ちょっと後で出てくるんですけど、まずは全体の話をちょっとさせていただきたいと思います。年齢階層別平均給与、ちょっと堅苦しい名前になっていますけども、こちら社会全体と比べた時にどうなるのか? というところです。社会全体は赤ですね。

吉田:
 赤の折れ線グラフがそうですね。

大坪:
 で、我々の調査の方は、青の方ででている目盛りです。これ見ると、40歳より低いということ、40歳でトントンぐらい、40歳を超えると上回ってくるというようなことですね。

吉田:
 むしろ60代ではかなり上回っているんですね。

大坪:
 そこまで生き残っていた人は。

吉田:
 そうか、つまりスーパークリエイターじゃないと60過ぎまでアニメーターやられることは、まずないということですね。そりゃそうか、どの伝統産業もそうか。

大坪:
 そういった意味では、ベテラン中のベテラン、レジェンドと言う言い方だと思います。

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