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「『シン・ゴジラ』は東宝への宣戦布告」――庵野秀明に影響を与えた戦争映画の巨匠・岡本喜八を映画評論家が解説

 エンターテインメントを楽しむための深掘りトークプログラムWOWOWぷらすと 。今回のMCは学者芸人であるサンキュータツオさん、ぷらすとガールズの早織さん。ゲストに時代劇研究家の春日太一さんをお招きしました。

 春日さんの『トーク無双シリーズ』コーナーでは、映画監督の岡本喜八さんをテーマに語っていただきました。岡本喜八さんは、2016年に公開された映画『シン・ゴジラ』で重要な人物“牧博士”として登場するのですが、「それこそが監督の庵野秀明さんからの重要なメッセージだ」と春日さんは語ります。

戦争映画の巨匠、岡本喜八さん。
画像は『しどろもどろ―映画監督岡本喜八対談集 (ちくま文庫) 』Amazonより。

シン・ゴジラに影響を与えた戦争映画の巨匠、岡本喜八

左から早織さん、春日太一さん、サンキュータツオさん。

春日:
 岡本喜八自身は、映画界に入った翌年、すぐに兵隊にとられて特攻隊の予備訓練をしていたんです。
そして終戦を迎え、映画界に戻ってから10年間、助監督生活を送り、ついに映画監督デビュー。彼は当時の日本の戦争映画を変えたんです。とにかく異質だった。アクションとコメディをひたすら撮っていて、アメリカ的なセンスで本当に新しかったんです。

 少し岡本喜八に馴染みのない人に分かりやすく説明すると、『シン・ゴジラ』という映画がありましたね。

サンキュータツオ:
 そう! 『シン・ゴジラ』に出てくる牧博士の写真に岡本喜八の写真が使われた。

春日:
 これは凄く重要な事で、『シン・ゴジラ』の監督の庵野秀明と岡本喜八の関係性です。庵野秀明に影響を与えた映画監督は市川崑、岡本喜八、実相寺昭雄なんですね。『
シン・ゴジラ』の中で、岡本喜八を牧博士として使っているのですが、これが凄く重要なメッセージで、僕の見立てとしては、「もしも岡本喜八がゴジラを撮ったらどうなるか」っていうシミュレーションで撮った物だと思うんです。

画像は『シン・ゴジラ』公式サイトより。

春日:
 実はあの映画を見てもらうと、主人公が牧博士に導かれるままに動いて、その結果ゴジラと戦った。つまり、岡本喜八と庵野秀明の関係性そのままなんですよ。岡本喜八に導かれるままに庵野秀明は映画を作った。作品世界を支配しているのは岡本喜八であるという事なのかなと思います。

 映画の中で、「私は好きにした、君らも好きにしろ」という言葉を岡本喜八に言わせたんです。これにも意味があって、これは岡本喜八の映画人生そのものなんですよ。おそらく、庵野秀明の「この人は好きにやってきた、だから俺も好きにやるんだ」という意思表示なんだと思います。

 岡本喜八は東宝の会社体制と戦ってきた人で、これから同じく東宝の会社体制と戦う庵野秀明としては、「岡本喜八もそう言ってくれるだろう、だから僕もそれを目指します」という意思表示なんじゃないのかなと思います。そうじゃなければ、岡本喜八である意味がない。

サンキュータツオ:
 お~、確かに。

春日:
 ある種の東宝への宣戦布告です。岡本喜八は東宝にいながらも我流を貫き通したんです。それと同じ事を今度は庵野秀明自身がやってやろうじゃないかという事で、あの『シン・ゴジラ』になっていったんです。実際、庵野秀明は東宝にいろいろ言われながらも貫き通したんです。しかも、貫き通した流儀が、岡本喜八流だったんです。

シン・ゴジラの会議シーンは岡本喜八流の演出

春日:
 では岡本喜八流とはなんぞや、という話なのですが、1つは物語の展開のさせ方です。日本の基本的な映画は、時間軸が垂直なんです。どういう事かと言うと、日本のドラマって、情を掘り下げていくんです。

 例えば、個人の葛藤、家族間のトラブル。物語を前に進ませるんじゃなくて、一旦止めて掘り下げて、感情、関係性、私生活の説明を入れるので、物語は動かないんです。役者も物語の進行を止めて切々と語っていくのが、“ドラマを語る日本映画”と言われている。ところがこれって、テンポが悪くて退屈なんですよ。日本映画がたるいなっていうのは、こういうところ。

春日:
 岡本喜八の作品は、特に物語の進行が水平軸だったんです。どういう事かと言うと、ずっとストーリーがスピーディーに前に動き続ける。動いていく中でさりげなく心情が伝わっていく。これは実はハリウッドのやり方なんですよね。

 日本映画は「公私のバランスを取れ」って昔からずっと言われているんです。でも、バランスを取れば取るほど、退屈になってくるという側面があるんです。『シン・ゴジラ』が実は、批判を受けたところや面白かったところも、岡本喜八流にやったといえば、全くそうなんです。“公私”の“私”のシーンが全くないですよね。

サンキュータツオ:
 確かに! 会議のシーンばかりだった!

春日:
 会議のシーンの演出は、完全に岡本喜八の演出のやり方なんです。岡本喜八作品の『日本のいちばん長い日』と同じカット割りなんですね。そして、主人公の家庭が描かれていないですよね。会議の“公”のシーンばかりで、家庭など私生活の“私”の部分は一切描かれていなかった。

 もう1つは、石原さとみの祖母が原爆で死んでいたという設定がありますが、原爆の写真1枚だけで説明が終わりました。あれも、今までの日本映画のやり方だったら、原爆で苦しんで死んでいくお祖母さんの回想シーンが出てくると思うんです。

サンキュータツオ:
 確かに!

春日:
 それをなくして前へ前へ、テンポを良くした。そこが岡本喜八流だったんですね。
そして岡本喜八自身は「その段階で、その事が分からなくても、まず全体が面白ければ良いんだ。あとで分かれば良い」と言っています。

サンキュータツオ:
 なるほど。

春日:
 家に帰って「ああ、こういう事だったのか!」と言わせれば良いという作り方です。それを庵野秀明は踏襲していたんですね。

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