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「BSマンガ夜話」裏事情を岡田斗司夫が語る 「いしかわじゅん=天然キャラ」ってどういうこと!?

 1996年から2009年までNHKで放送されていた番組「BSマンガ夜話」。毎回1作品、注目を集めているマンガを選び、徹底的に語り尽くす生放送番組だった。10月16日の「シン・ニコ生 岡田斗司夫ゼミ」では、「ニコ生マンガ夜話」と銘打ち、マンガ夜話風に今話題のマンガを取り上げた。

 岡田はあらためて「マンガ夜話」という番組のフォーマット、構造について説明した。番組内であえて「これなにが面白いんですか?」「どういう意味ですか?」と問いかけるなど、視聴者のために「分からないキャラ」を演じていたことを明らかに。今だからこそ語れる「マンガ夜話」のエピソードを振り返る。

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 今回、「ニコ生マンガ夜話」ということで、マンガ夜話をちょっとやってみようと思います。マンガの語り方ってすごく特殊なんですね。「マンガ夜話」というのは、その語り口がすごく面白くて、何であれは成立していたのか、どういう構造になっていたのかっていうのを、話しながらやってみようと思います。

 「マンガ夜話」は10年くらい前までNHKで時々やってたシリーズなのだけれども、大月隆寛さんが司会をやって、いしかわじゅんさんと夏目房之介さんと僕がレギュラーをやっていて、毎回ゲスト来てマンガのことを語っていました。

マンガ夜話の役割分担では、マンガを読んでいない視聴者の為の「わからない」担当を務めていた

 役割としては大月さんが熱く語りながら基本的に進行をしてくれて、いしかわじゅんが暴言を吐いたり断言をすると。こいつマンガ下手とか絵が下手、というふうに決めつけてくれると。夏目さんが分析的に語ると。この作品はマンガの歴史の中ではどこにポジショニングするのかという。

 それで、僕がイレギュラー担当、「わからない」担当。これはどういうことかというと、こういう番組作る時にやっぱ一番危険なのが、みんなが分かっちゃうこと。

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 マンガは10万部売れたら大ヒット。ところがNHKは視聴率が5%でも500万人見ている。大ヒットでも5万部10万部の媒体と、低視聴率と言っても500万人見ているものとが混ざってしまうとついつい誤解してしまう。

 出演者全員がそのマンガ読んでいるし、有名だという前提で話してしまうのだけれど、例えば『ワンピース』と言っても単行本1巻出るたびに、100万人程度しか読んでいないわけだよ。なので、大半の視聴者はそのマンガを読んでいないし、多分一生読まないだろうという前提で番組を作らなければいけない。

 番組の中では全員読んでいる前提でどんどん話すとマズイので、誰かがよく分からないというのを担当しなきゃいけない。それじゃ俺がやろうかとことで、自然に岡田斗司夫は「分からない担当」になった。

 特にやんなきゃいけなかったのは少女漫画の回なんだよね。いしかわじゅんさんは作品選ぶ時に少女漫画が多めに入る。大体4つマンガ取り上げたら一つか二つは少女漫画。そうすると僕はそのマンガを読んで、「コレよく分からないんです」とか「何が面白いんですか?」とか、「僕はちっとも面白くありませんでした」と言う担当になる。ところがそれを言うだけだったら単に芸人さんが茶々を入れてる感じになっちゃう。

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 つまりコレは少女漫画を読まない男性の視線だったり、読んで一生懸命分かろうとしたのだけども分からない男性という、良い感じの線を狙わなければいけない。でないと、単にそういう意見もあるけれど、このマンガ面白いよねと進行しちゃうから。ということで、番組作る時はこのバランスがすごく難しかったんだ。

マンガ夜話はいしかわじゅんの暴言、断言をいかに引き出し、みんなでそれを面白がるか

 いしかわじゅんの役割の本音で喋っている「断言暴言」っていうのもこれも大事でね、この番組の中に出ている人で天然なのはこの人だけで、いしかわじゅんだけは本当に天然で何も考えず喋っている。

 夏目さんは前々から「俺本気の評論家モードで話したらいしかわじゅんと話が合うはずないじゃん」と言っていたくらいだから本当はそんなに意見が合わない。ところが、この番組はいしかわじゅんの暴言、断言をいかに引き出して、みんなでそれを面白がるかだというのが、2年目くらいから出演者全員気が付いた。

「絵が上手い」と「マンガが上手い」は違う

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 それで例えば、いしかわさんが絵が下手とかね、こいつはあんまりデッサンしてないっていう時あって……。番組内でも気を付けていたのだけれど、「絵が上手い」と「マンガが上手い」は実は違うという話をしてきたんだけども。資料として持ってきたのが池上遼一作画の『信長』と、吉田戦車の『殴るぞ』。

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『信長』の一コマ

 これがね、いしかわじゅんが指摘する典型的なマンガが下手な、絵が下手な池上遼一のマンガ。池上遼一は絵が凄い上手いことになっている。で、この一コマ目の馬の走り方と三コマ目の馬の走り方。コレ、いしかわじゅんによると全然走っていないと言うんだよね。言われてみたらそうで、走っている馬の絵じゃないんだよ。完全に空中で止まっているし、馬はこんな走り方しない。ただ上手そうに見えると。この池上遼一の描き方っていうのは静止画なんだよ。それでいしかわさんは割と批判的だったんだ。

 それに対して『殴るぞ』の吉田戦車というのはギャグ漫画家なのだけども、あんまり上手く見えないけれども、これ上手いんだよ。絵としてデッサンが滅茶苦茶取れているからこのデフォルメがすごく上手く見えている。

 例えばこの一コマ目、犬が二本足で立っているんだけども前足の位置と頭の位置を見れば体重が上半身にかかっているのがわかる、体重が上半身にかかっているからこの犬が机に体重をかけているのが分かる。こういう絵って描けないんだよ。デフォルメした絵の中でもちゃんと上半身にくっと体重かけてるっていうのがわかるっていうのが絵が上手い、マンガが上手いってことなんだ。

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『殴るぞ』の一コマ

マンガ夜話の中で僕の役割は、良いトスを出すこと

 さっき言ったようにこの4人の組み合わせで、やっぱりいしかわさんとか夏目さんとかって説明キャラなんだよな。いしかわさんは断言というか、自分の感性で説明するし、夏目さんは他の漫画との比較とかすごい理論を踏まえた上で説明するんだ。僕の役割は、彼らがスパイクするのに対して良いレシーブを出すというか良いトスを出すことなんだよね。マンガ夜話の中で僕の役割っていうのは、どんどん良いトスを出して、いしかわさんが「それは違うよ!岡田!」とか「いや、こんなやつ絵が下手だよ!」とか言うのを出した時に、大月隆寛さんから「岡田さん、ナイス」みたいな感じになってくるという。

 断言とか偏見で語るいしかわじゅんと分析的に語る夏目房之介と、それに対して僕が「あっ、ココのところ多分見ている人分かってないから、敢えて質問したほうが良いな」とか、「ココのトコロは逆に僕が暴走して、こうに違いない」と言って、引っ掻き回すような僕と、あとは全体的に自分の好きな漫画の時は前のめりなんだけど、自分が嫌いな漫画の時にはうーん俺はちょっとどうもよく分かりませんねって正直な全部顔に出ちゃう大月隆寛というこの4人でやっていて、そこにその漫画が好きなゲストとかが来て成立していたんだ。

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今、マンガ夜話に唯一、近いなと思うのが、「関ジャム 完全燃SHOW」

 マンガ夜話以外で僕はこのフォーマットを作れた番組って見たことがない。作品を語る時にコレって凄く良いんだよ。そのあとBS音盤夜話っていう音楽に関して語る番組を作ったのだけれども、このフォーマット作れなかったんだよね。

 今、だいたい日本で何か作品を語る時はそれのファンが出てきて、例えばアメトークのキングダム芸人みたいな、好きな人が出てきて熱く語って、蛍原さんが「ようわからへんなあ」ってポジションを敢えてやっているのだけれども、それぐらいで。断言と解説とトリッキーな質問とあと熱い情熱というものの組み合わせが上手くいってるのを見たことがない。

 唯一、一番近いなと思うのが、「関ジャム 完全燃SHOW」という番組があるんだけども、あれの中の音楽の紹介が割と近いな、マンガ夜話の進化系としてすごくいいなと思っていて。『関ジャム』は面白いことに、楽曲を紹介する時に本人を呼ばずにやる。本人を呼ばずにやるからいしかわじゅんの暴言が光るわけで、今のクリエイターや作品紹介番組というのはすぐにクリエイター本人呼んで聞くインタビュー番組になってしまう。そこら辺がつまらないんじゃないかなと思いました。

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