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『トレインスポッティング』『スラムドッグ$ミリオネア』監督が、自身の作品を通して伝えたかったメッセージとは

ダニー・ボイルはジャンルに拘りがない

宇野:
 当時そんなに売れていなかった原作の小説を映画化しようと思った理由は、登場人物に惹かれたんだそうです。これまで本で読んだことのないようなリアルな世代の生態が描かれていたんですね。当時、ダニー・ボイルはこの物語を描きたかった、というよりは、この本の中にいる人間を映画にしたかったって言っているんですよ。20年を経て役者が集まったのも、あの役をやることが役者たちにとって特別だったんですよ。

西寺:
 自分以外の誰かが演じるより良いと思ったんでしょうね。

宇野:
 そう。だから、ダニー・ボイルとは何かという話をしますと、実は映画のスタイルはどうでもいい人なの。だから毎回作品のスタイルが変わっていくんですけど、彼はビックリするくらい、人間を描く監督なんですよ。『パルプ・フィクション』ぽい枠組みの中に、ダニー・ボイルの作った人間が置かれていって、化学反応が起きたんだけど、実はその枠を取っちゃうと人間が残っている。

宇野:
 彼がすごく面白いのが『ザ・ビーチ』【※】でコケて、その後、ホラー映画とSF映画で復活するんですよ。だから彼はジャンルにもこだわりがない。要は、自分が復活するためにはホラーも作るし、SFも作るけど、「俺はジャンル映画の映画監督じゃないんだ、俺は人間を常に描いているんだ」と。

※ザ・ビーチ
2000年公開。レオナルド・ディカプリオが主演したが、実は『トレインスポッティング』で主演を務めたユアン・マクレガーが起用される予定だった。

生きることへの欲望、渇望を常にいろいろなスタイルで描き続ける

宇野:
 もっと言うのであれば、 “生命に対する賛歌” というか、常に “生き残り” を描いているんですよ。ホラー映画にしてもそうですけど、「人間はどう生き残るか」っていうサバイバル。『トレインスポッティング』もそうだし、『ザ・ビーチ』もある意味そうだし、一番特徴的なのは『127時間』【※】だね。

※127時間
2010年公開。登山家のアーロン・リー・ラルストンの自伝『奇跡の6日間』を原作とした。主人公がロッククライミング中に落石に右腕を挟まれ、谷底から一歩も動けなくなった実話を描いた。

『127時間』Amazonより。

宇野:
 あれは生き残るだけの話でしょ? 人がどう生き残るかっていうのを常にいろんなスタイルで描き続けている。すごいなと思うのが、岩に挟まれて逃げる話で、普通はああいう映画を撮るときって回想シーンが入るんだけど、あの映画はほとんどそれがない。それで100分見せてしまう演出力は何事かと。

西寺:
 『ザ・ビーチ』とかも、前半何やってたかとか覚えてないですもん(笑)。

宇野:
 僕、『スティーブ・ジョブズ』【※】が最高傑作だと思っていて、あれも普通にスティーブ・ジョブズを描くんじゃなくて、3回の会見だけなんですよ。それだけなんだけど、とことん人間を描いているから、その演出力で見せちゃうという、かなりトリッキーな作り方をしているんだけども、どんなトリッキーな作り方をしても、そこに人間が描かれているから、見れちゃうのが凄いところ。

※スティーブ・ジョブズ
ウォルター・アイザックソンによる伝記『スティーブ・ジョブズ』を原案とした2015年公開の伝記映画。

番組スタッフ:
 “人間を描く”という解釈は、生身の人間がどう生きるか、ということに強く焦点を当てているということだよね? 人間の生き様をフォーカスしているということですよね?

宇野:
 うん。あとは、“サバイバル”ですよね。スティーブ・ジョブズだって、大失敗してからの復活劇じゃないですか。ダニー・ボイルがなぜ『トレインスポッティング』で『ラスト・フォー・ライフ』【※】を使ったかっていうと、まさに“生命の渇望”じゃないですか。

※ラスト・フォー・ライフ
1977年に発売されたイギー・ポップの曲。

『トレインスポッティング』Amazonより。

宇野:
 実は、この曲はダニー・ボイルのテーマ曲じゃないのかなって思うんですよね。生きることへの欲望、渇望というのを常に描いてきた監督で、彼が映画通的な部分で評価されないのは、あまり映像に対するフェチシズムみたいなのがないんですよ。舞台出身で演出力がありすぎちゃうから、スタイルっていうのに(独自性がない)。映画通はスタイルが固定している監督の方が語りやすいから好きじゃないですか。ダニー・ボイルは「何でも来い」って人なんですよね。

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