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プーチン訪日で北方領土問題は解決に向かうのか!? 孫崎享・小泉悠等がロシアの思惑を徹底解説

自分が兄貴だったのに、妹扱いされた

下斗米:
 ええ、あのこれからおそらくプーチンさんの頭にあるのは、これまでかれこれ10年くらい、中ロ関係をずっと改善プラス、中国は経済成長していた。ただ、この関係が逆転したわけですね。文字通り、自分たちの方が兄貴だと思ってたのに、なんとなく妹扱いされてるっていう、そういう心理的なフラストレーションっていうのはロシア人の間にあって、にもかかわらず先ほど申し上げたテクノロジーですよね。その点ではやはり中国がやってることは依然としてまだ中進国で、しかも罠に入りかけてる。

 中国にあんまり今のところモデルとしての魅力は少ない。そうすると今、なんだかんだといっても日本との関係というのがG7のなかのいちばん親切というか、関係のいい国になってるわけで。その意味で、やはりアジアの中でのバランスというか、中ロのバランス、日中のバランス、あるいはインドを含めてバランスを取る、そういったバランス志向なんだと思うんですね、プーチンさんというのは、いろんな意味で。決して欧米で言われているようなデーモンでもなんでもなくて、非常にプラグマティックな人で。

 今度、議会選挙のあとで大統領府の人事を変えましたが、なんと大統領府の長官は日本勤務のヴァイノさんという人で。彼は、5~6年東京におられたんじゃないかと思いますけど、まあ、そういう人がなってるくらいで。

 あるいはキリエンコさんって、首相からロスアトムの会長だった人がナンバー2に入りました。その意味では、今まで軍事安全保障のプロだけが入っていたところから、人事を少し、西側(G7)が分かる人を置いてきたと。これは非常におもしろいってことですね。

堀:
 ユーザーのみなさんから質問が来ていますので、ひと言ずつお答えいただければ。まず、男性30代、千葉県の方です。ありがとうございます。「プーチンの後継者はいるのでしょうか?」

下斗米:
 まあ、これはプーチンさんが次の大統領選挙に出るってことをまだ言ってませんので、なんとも言いようがないんですが。

堀:
 なかなか後継者を育てるのも勇気のいる話ですね。プーチンさんにとってみれば。

下斗米:
 今度の議会選挙の結果、40代くらいの人たちがトップリーダーシップに入ってきたんです。これは大きいと思いますね。もうひとりボルジンさんっていう今まで第一副長官だった人が議長になり、あるいはナルイシキンさんっていう今までの国会議長が安全保障のスーパー官庁のトップになる可能性が出てきて。

 まあそういった人の名前が上がっていなくもないですが、まああくまでも推測でしかないという。

堀:
 なるほど。まあ。まだまだしばらくプーチン体制ってことになるんでしょうかね。
 ええ、男性30代、北海道の方です。「北方領土の現実的な落としどころは?」

 先ほど、孫崎さん2島返還の話をされていらっしゃいましたけれど、そのほかの現実的な落としどころっていうのはどういう部分になりますか? ほかの意見があれば。小泉さん、ありますか?

小泉:
 まあ、現実的にやっぱりロシア側の言うことを見てると、4島はもちろん彼らは論外と考えていますし、2島でさえ相当の妥協と考えてると思うんですよ。たぶん2島が現実的なんだと思うんですけど、2島を両国民に納得させるようなプラスアルファが必要なんだと思うんですよ。

 ロシア側から見てみると、この2島を返すとは言わないけど引き渡すことによってこんなメリットがあるじゃないかですかと。日本側にとっても、2島だけどこんないろんなものが付いてますよ、いろんなメリットがありますよってたぶん示さなければいけなくて、それはたぶんロシアから見れば共同経済開発みたいな話になるんでしょうし、いわゆる8項目の経済協力ですよね。

 あるいはやはり日本側から見ると、私はけっこう北方領土の関係で根室とかたまに行くんですけど。根室に行くと、本当にこの漁協の人が疲弊してるんですよね。昔10何万人いた人口も1万何千人しかいないんですよとか。そのときたまたまホヤをつまみに飲んでたんですけど、「このホヤ、もう獲ってる船が一隻しかないんですよ。もうこれをやってるおじいさんが漁をやめたら根室でホヤは上がらないんですよ」ってことを言われて、本当に疲弊しきっていることがよくわかるんですよね。

 そうしたらやっぱり漁業権の問題が2島プラスアルファ何か出てくればとなると、かなり日本国民にアピールする部分もあるんじゃないかと。たぶん、2島のプラスアルファを何にするかっていうのが焦点になるんじゃないかなという気がしますね。

堀:
 孫崎さん、いかがですか?

孫崎:
 ロシアは約束してるわけですからね。歯舞、色丹は平和条約を作ったら戻すと。だから、基本的には、あなたたちは国際的な約束は守る国ということでがんばれるんじゃないかと思ってますけど。

堀:
 続いて男性20代、東京の方です。「小泉さんに質問です。アジアのミサイル防衛に対するロシアのスタンスを伺いたいです」。

小泉:
 はい。ロシアはご存じのようにずっとヨーロッパ側では、アメリカのミサイル防衛はいやだいやだ、許さんと言ってたわけですね。ところがアジア側に関しては比較的そうでもない立場だったんですよ。というのはロシアにとってミサイル防衛が本当にイヤなのは、ヨーロッパからミサイルを撃ってもロシアは落とせないことはICBMで技術的にはっきりしてるんですよね。

 なんだけども、どっちかっていうとロシアがイヤなのは、先ほど孫崎さんがおっしゃった、ロシアを敵と見なさないと。そこに大部隊を置きませんよという協定に反してNATOの実戦部隊が東欧にやってくるっていうほうがおそらくイヤだったんだろうと思うんですね。

 だから、アジア側に関してはあまり言わなかったわけですけども、だんだん日米のミサイル防衛協力が進んできてそれなりの実力を持ってくると、最近日本に対しても微妙にそういうことを言うようになってきてるんですね。

 で、ロシアは2015年末に国家安全保障政策という指針を改定してるんですけども、このなかにはじめてヨーロッパに加えて中東とアジア太平洋のミサイル防衛というのも戦略的安全を崩す要因として入れてきたんですね。ですからこれはたぶんロシア自身もちょっとアジア太平洋側、だいぶMDが進んできちゃったねっていう認識を持っているのと、もういっこはおそらく、中国が朝鮮半島へのアメリカのサードという新型のミサイル防衛システムの配備に非常に反発してる。これに若干リップサービスをしたんじゃないかなと。

ロシア国民は日本をどう見ている?

堀:
 なるほど。最後、女性40代宮崎県の方です。「ロシア国民から日本はどのように見られているのでしょうか?」先生、少し前半でお話もされておられましたが、あらためて。

下斗米:
 あの、おそらく今ロシア人の目から見ますと、アメリカとの関係がいちばん悪い状況、アメリカのいいイメージというのはロシア人にはないだろうと思いますね。

 じゃ、中国がいいかというと、これもまたかならずしもよくないし、ヨーロッパは伝統的にキリスト教文明で自分たちが文明のモデルだったわけですから、これもまたヨーロッパというのが、なんとなくこう没落というわけではないんだけども、まあ経済成長がそちらの先にないなと。そうなると実は開いている窓は東側だけなんですね。

 その意味で日本に関する関心っていうのは依然として高いですし、まあ、あそこにスシバーが何軒あるって話はどうでもいいだろうと思うんですけども、そうではなくて若い世代の人に非常にあまり日本への反感がない人たちが日本語を勉強して、あるいは極東あたりから日本語をもう一回勉強しようかっていう雰囲気は出始めてますから。

堀:
 サハリンとか行っても日本のコスプレイベントがあったりとか、非常に近しいものが築けてるようですね。
 小泉さん、奥様がロシアの方ですよね? 肌で感じる部分もあるかと思うんですけど。

小泉:
 あの、まあ、やっぱりうちの妻もそうですし、妻の友人のロシア人たちもそうですけど、やっぱりすごく日本の文化とかに対するリスペクトが非常にあるんですよね。そうでない普通のロシア人の人たちも日本のテクノロジーとか、日本は深い歴史があるんですよねというような、日本に対してはポジティブなイメージがあって、そんなに日本に対してネガティブなことを向けられることはすごく少ないと思います。

 先ほど下斗米先生がおっしゃったソフトパワーなんかも日本は非常に強く持ってると思うんですけども、最近私がモスクワに行ってすごく驚くのが、昔はスーツ着てるアジア人は真っ先に「日本人か?」って言われたんですよ。ところが最近は真っ先に「中国人か?」って言われるんです。やっぱり何かすごく日本のプレゼンスが落ちてるというよりは、中国のプレゼンスが拡大してきてるんだと思うんですけど。

堀:
 なるほど。

小泉:
 しかも、昔の貧しい労働者とか、うさんくさい商人ではなくて、本当になんか取引をできるプレゼンスを持った相手として、たぶんロシア人の中に中国人の存在感が大きくなっているんじゃないかと感じますね。

堀:
 孫崎さん、いかがですか?

孫崎:
 私はロシア人は日本人を好きだと思います。

堀:
 それはなにか……?

孫崎:
 いや、いい国民ですよ。悪いことしないからね。

堀:
 いや、ロシア人の市民レベルでの交流や文化交流を含めて非常にいい関係を築けると思います。ただし、国のトップとしてのプーチン氏というのがどの程度信頼が置けて、ある意味ですね、非常にこう戦争紛争状況になるときわめて厳しい態度を取り、非人道的だと言われる局面もさまざまございましたよね。

 そうしたプーチン氏というのを、最後どう評価するのか。それぞれのプーチン評というのを聞かせていただけますか。

下斗米:
 私はこれまで数回お目にかかったことがございますけども、10月27日もソチでお目にかかる予定になっていますけど。さすがに最近は数百人押し掛けるもので、当てて質問させてくれたりするチャンスが少なくなったんですが。あの、回転が速くてですね、そんなに期待してたよりも無茶苦茶でたらめなことをおっしゃる人では全然ない。

 非常にビジネスライクな人ですね。その意味では、彼がしゃべったことというのは非常に重要なメッセージというのは必ずあるものですから、私はそういう意味ではプーチンさんというのは信頼できるリーダーだと思います。

 その意味で安倍総理とどういう話し合いになっているのか、まあ2ヵ月ちょっとしたらある程度輪郭が見えてくるんじゃないかと思いますね。

堀:
 そうですね。孫崎さんは?

孫崎:
 そういった意味では本当の意味での国益をどこまで追及できるかっていうことで判断すべきだと思いますし、そうすればプーチンは非常に高い評価の点数があげられるんじゃないかと思います。

堀:
 どこかで、アメリカの次のリーダーとプーチン氏を天秤にかけなくてはいけないときが来るわけですよね。

孫崎:
 アメリカはひどそうですよね。

堀:
 どちらになってもね。小泉さんはいかがですか?

小泉:
 あの、私はプーチンさんていうのはストルイピンがロールモデルだと思うんですよね。ストルイピンっていうのは、ロシア帝國末期の首相だった人物で、すでに革命騒ぎが起こってましたから、徹底的に反体制派を逮捕して処刑してったわけなんです。

 で、みんな縛り首にしちゃうんで、縛り首にする縄が”ストルイピンのネクタイ”って言われてたわけですけども。プーチンさんは、すごくこの非常時の、自分が国を継いだときはロシアはかなりまだボロボロで、そういう国をなんとか非常手段を使って治めなければいけないっていう、非常時のリーダーっていう認識を非常に強く持ってた方じゃないかなと思ってたんですけども、おとといですかね、ロシア議会でプーチンさんが演説したら、まさにストルイピンの話をしたんです。力が大事なんだ、ストルイピンのようにって。

 ああ、やっぱりプーチンさんはけっこうストルイピンを意識してたんだなっていうのを、非常に興味深く思ったんですけども。やっぱりその、非常事態のリーダーというのはあんまり長く続けちゃいけないと思うんです。戒厳令って何十年も続けちゃいけないんですよ。やっぱり本当に危ないときいやるから効果があるんであって。

堀:
 そうですよね。

小泉:
 やっぱりロシアという国がここまで、まあちょっと今経済苦しいですけも、でも少なくとももうロシア連邦が崩壊するかもしれないってレベルまでやってきたところで、じゃあそろそろストルイピンではない新しいリーダー像が求められると思うんですけども。

 そのときにプーチンさんがシフトするのか、新しいリーダーに受け渡すのかわからないですけども、なんかその、ポスト・ストルイピン的なものが打ち出せるのかどうかっていうのが今後のロシアの注目点じゃないかなという気がしています。

ロシアを見ることで、今の世界が見える

堀:
 最後に、今後どういう点に注目すればいいのか、ひと言ずついただいて締めようと思います。

下斗米:
 まああの、時間が2ヵ月ですから、たぶんその間あまり出てこないんじゃないかと思うんですね。一般的なことしか。そして2ヵ月後にある程度のきちんとした文章なり両首脳の発言というものが、非常にインパクトのあるものが出てくるってことを期待もしてますし、そういう方向に動いているんじゃないかと思いますので。まあ、あんまり一喜一憂してもしょうがないんですが。かなり12月は歴史的になるんじゃないかなという気がします。

堀:
 孫崎さん。

孫崎:
 ひとつのチャンスじゃないかと思いますね。

小泉:
 ロシアは関係が進みそうになると非常に軍事的な牽制を繰り出してくるっていうパターンがすごく多いんですよね。ですからおそらくこれから日露関係がうまくいくんじゃないのっていう期待と並行しておそらく日本を牽制するような軍事行動がかなり増えてくると思いますし、さっきお話があった北方領土の軍事力近代化って話が2016年をめどにしてるんですよね。

 まだ目立った話はないんですが、おそらく年内までに間に合わせようとするんで、これはいろんなリリースが出てくるんじゃないかと思って、私は軍事専門家としてそこのところを注目しています。

堀:
 お三方とも、今日はありがとうございました。いずれにしても私たちは本当にロシアについてまだまだ理解していない部分もあるでしょう。ロシアを見ることで今の世界情勢、さまざまな局面からまたニュースも見えてきますので。まさにこの国のトップとあの国のトップが会談を行うわけです。そういうタイミング、ぜひみなさん注目をし続けてもらえればと思います。

※孫崎氏、小泉氏による寄稿記事も合わせてご覧ください。

なぜ、プーチン大統領は圧倒的な支持率を誇るのか?――ドキュメンタリー「プーチン大統領のすべて」を見て(寄稿:孫崎 享)

存在感増すロシア——「大国」の実像と虚像(寄稿:小泉 悠)

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