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プーチン訪日で北方領土問題は解決に向かうのか!? 孫崎享・小泉悠等がロシアの思惑を徹底解説

 2016年12月。プーチン大統領の訪日を控え、進展が期待される日露平和条約交渉の締結と、北方領土問題。くしくも岸田文雄外相が閣議後の記者会見で「2島先行返還」に含みをもたせる発言をするなど、日露関係に注目が集まる中、われわれはロシアという国をどう見据えていけばいいのか!?

 ジャーナリスト・堀潤、法政大学法学部国際学科教授・下斗米信夫、元外務相国際情報局長・孫崎享、そして軍事アナリスト・小泉悠。ロシアに熱いまなざしを向ける四氏が集結、”「プーチンのロシア」は何をめざしているのか”徹底解説を行いました。


プーチンの訪日で、平和条約締結交渉は進むか?

堀:
 さっそくアンケートです。「プーチン大統領の訪日で、北方領土問題を含む平和条約締結交渉が進むと思いますか?」

 やはり北方領土問題、日本は4島返還を望んでいます。まず2島からなのか。そして4島まで拡大できるのか。また他の形があるのか。いや、その前に平和条約の締結だと。実は日本とロシアの間では平和条約はまだ締結されていません。

 平和条約というのは、すなわち戦争は終結しましたという象徴ですよね。それを締結したいということが前提になってくる会談だと言われています。どうでしょうか? アンケート結果を見てみましょう。

 交渉は進まないという方が58.8%で大勢を占めています。しかしながら、進むという方が3割くらいいらっしゃいます。この結果、先生はどう思われますか?

下斗米:
 私自身は、どちらかといえば進むという方に軍配を上げたいほうなんですが、今のところ中身がよく見えないですよね。特に9月から、経済だとか首脳が動き始めましたけど、肝心の領土交渉とか平和条約の中身についてはぼやっとしか見えていないもので。それでまだ、今のところそういう世論状況なのかなと思います。

堀:
 やはり、かつて平和条約が締結できなかったのは、北方領土の問題が、そこが最終的な線引きになったからですよね。なので、平和条約を結ぶというのは、北方領土問題は、必ず避けては通れない。

下斗米:
 そのとおりですね。ハイポリティクス中のハイポリティクスなわけです。その意味では1988~1989年、1991年と、あそこがひとつのヤマでしてね。それに98年前後の橋本・エリツィン会談、それからまあちょこちょこあったわけですが、私はやっぱり3番目の非常に大きな波が来ているのかなと感じます。

 2013年、2014年というのは、特にソチ五輪に西側首脳で安倍総理だけが出席して、あのときわっと行くかなと思った、そういう状況でこの今のウクライナ紛争が起きたわけですから。

堀:
 プーチン政権は人権問題なども含めてさまざまな問題を抱えていたなか、安倍さんはソチに行ったんですよね。

下斗米:
 西側でひとりだけだったんですよね。そして、そのちょうど閉会式のときにこのクリミアの、ウクライナをめぐる紛争が起きて、まあそこから2年くらい空転したわけですね。私はこの空転の間、日本側が特にロシアのことを勉強した時間なんじゃないかと思うんですね。

 たしかに西側の制裁のなかで、どうやってプーチンと話をすればいいのか。プーチンだけと話すわけにはいきませんから、ウクライナともバランスをとるという、きわめて用心深い、それなりの手を打ったなかで、去年からの平和条約交渉っていうのが進んでいて、去年11月のトルコでプーチン、安倍会談が10分間。そして今年5月ソチで、例の八項目提案を出したときに、プーチン、安倍、両首脳だけの会談が35分間あって。

 そしてこの9月に、東方経済フォーラムというプーチンさんがやり始めた会議でだいたい55分間、両首脳がしゃべっているわけですね。私はロシアの人たちとしゃべっていて、9月くらいからかなりの人たちの態度が変わってきたと感じました。

堀:
 ロシアの人たちいうと、だいたいどの範囲の人たちのことを指しますか。政府高官、官僚、企業人……。

下斗米:
 今年4月にヤクーチンという日本の6倍もある場所で、われわれにそっくりな顔をした人たちにインタビューしたんですけどれど。そこは特にエネルギーが取れるところなんですが。

 しかし彼らの感心は第四次産業革命とか、ロボットだとか、IOTだとか、そういうことについて「日本側はどう考えているか?」ということで、そういう話をけっこう若い人がするんです。そしてそうなると、「相手はやはり中国より日本だよね」と考えていることまでなんとなくニュアンスとして聞こえてくる。

 今年はあと、2週間ほど前にハバロフスクに行ってきたんですが、ハバロフスクでも日本の会社が温室栽培で野菜を作っていると。3人の日本人経営者が地元の人を50人使ってやっているそうで、ハバロフスクの野菜の10%以上は彼らが作っている。

 そういうものを今増やしていて、ゆくゆくは極東から中国までロシアの野菜を輸出するんだっていう意気込みを見ましたよ。そこだけ言っても、もちろん全体のバランスにはなりませんけれども。

堀:
 次のステージを見据えた世論形成というのが、最先端のところではシフトしてるんですね。日本国内でも、たとえば「インダストリー4.0」とか言っても「あ、あれね!」という方はまだ少ないと思うんですよ。AIとかIOTとかロボットとか、次世代型のネットワーク型の産業革命を起こそうっていうお話ですね。小泉さんは今のお話をどう聞かれました?

小泉:
 ロシアの人って、すごく〝概念〟を作るのがうまいんですよね。私の専門である軍事に関して言うと、90年代に軍事における革命、RMAというのが話題になって、まさにその通常兵器とネットワークを組み合わせると、数よりも質の方で圧倒できるんじゃないかという議論があったんですね。これをアメリカ軍が実際に幅広く取り入れて、戦い方が大きく変わったわけなんですよ。実はこの概念はソ連の将軍たちが作ったんです。

 80年代に参謀総長だったオガルフコフといういわば先進的な軍事思想家たちが、「これからは宇宙空間やネットワークなど、そういうものと生物兵器を組み合わせていけば、まったく新しい戦い方が出現するだろう」という議論をやったわけですけど。

 当時のソ連は、それをやるお金も軍事力もなかったんです。ロシア系イスラエル人のアダムスキーっていう軍事専門家がいるんですけど、彼は「ロシア人は技術も金もないところから概念を作った。アメリカはその手に技術があったのに10年以上気がつかなかった」ということを言ってるんですよ。ただ、それがオガルフコフたちに論文が翻訳されて戦い方の革命が起きたわけで、そういうところは、非常にロシア人は先鋭だと思います。

堀:
 へえ! なるほど。

小泉:
 難しいのはそれを実践することなんですよね。こういうすごいことを考えました。じゃあ実際にそれをやってみましょうというときに、たとえばちょっとした部品がないとか、そういったビジネスの基盤がないといったところでいつもつまずいてしまうわけで、そういうところをこれからプーチン政権がどういうふうに制御していくのか。非常に難しいと思いますけど。

 実はプーチンさん、2012年に大統領に復帰したときに、11本の戦略的大統領令っていうのを指令してるんですけど、その中で「ロシアを世界銀行のビジネス環境ランキングの20位以内に入れろ」っていうのが入ってるんですよ。

堀:
 はー! 具体的な、明確な。

小泉:
 そのときは、ロシアはたしかまだ100何十位。こんな国に投資するのはとんでもないってレベルだったんですけど、実際に今、50何位まで上げてきてるんです。だからプーチンさんも、いつまでも石油とガスに頼った経済ではどん詰まりだってことはわかっているんです。そのためにはなんとかビジネス環境を整備していかなきゃならない。50何位まで来たので、なんとか20位まで上げていきたいっていうのはわかります。

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