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熱狂的なファンに支えられるアニメ「ゆゆ式」が、TVシリーズから4年経っても愛され続けるワケ——原作愛に満ち満ちたOVA制作秘話

細部までこだわり抜いた画作り

――もう一度TVシリーズとOVAとの違いに戻ると、ビジュアル面では目の処理も特徴的ですよね。

かおり氏:
 目のデザインも、最近の原作のカラーイラストに合わせて、瞳孔のUの字を実線ではなく太めの色トレスのみにして、瞳の下のほうに二段階に撮影処理を入れてもらうなど、こだわったポイントですね。
 あと細かいところでは、髪の毛のハイライトも原作の変化に合わせて、太い一本線の先にスーっと消し込むグラデーション処理をかけてあります。ただ長谷川だけは丸いハイライトで、しかもよく見ると2色になってるんですよ。原作第8巻の表紙がわかりやすいんですけど、明るいハイライトとちょっと暗めのハイライトの2種類があって、手間はかかってしまうんですけどお願いして再現していただきました。撮影監督の若林(優)さんも『ゆゆ式』が大好きなので、「表紙のあの感じを出したいです!」とお伝えしたら「わかりました。やりましょう」と言ってくださって。そのおかげで、かなり再現度高くできたんじゃないかなと思います。

――また主線をはじめ、色味も全体的に秋らしい色調に。

かおり氏:
 色彩設計もTVシリーズから引きつづき水田(信子)さんにお願いしていますが、輪郭線の色もだいぶ上げて、前回よりもさらに茶色がかった色にしてもらっています。美術では秋の紅葉の感じを意識していただいたんですけど、キャラクターの色味もそれに合わせて明るく柔らかい感じにと。

――美術監督は、TVシリーズでは3Dレイアウト設計を担当されていた菱沼由典さんにシフトされています。

かおり氏:
 美術も原作の変化を取り入れて大きく変えましたね。たとえば原作でも途中の巻から徐々に、背景の影のところにフリーハンドの縦線を入れる表現が増えてきて。この感じをアニメでも出したいと菱沼さんにお願いして、うまく再現していただきました。あとはTVシリーズと比べて光の感じも少し落ち着かせて、また今回は秋ということで、うろこ雲を何度か印象的に登場させるようにしています。TVシリーズでも季節感は大事にしたところなので、ここはこだわったポイントですね。

――BGMにも新規の曲がありました。

かおり氏:
 エピソードの最後に流れるあの新曲は、音楽のsakai asukaさんに録り下ろしていただいたものです。映像ができたあとにフィルムスコアリングで作っていただいたので、画と音楽のタイミングもバッチリですし、海外に在住の方なので直接打ち合わせしたわけではないのに、作品を観ただけで「唯のテーマ」のアレンジとして制作してくださって。「さすがsakaiさんはわかっていらっしゃる~」と感激しましたね。

会話のテンポ感をコントロールする

――また演出面の変化で言うと、もともと速かった映像のテンポが、より一層加速したように思います。

かおり氏:
 かなり速くしましたね。そもそもシナリオが26ページもあったんですよ。普通のTVシリーズでは1話あたり20ページ前後なので、もう削れないというところまで切り詰めたんですけど、まだ大幅にオーバーしてしまっていて。それでどうしたかというと、一つにはOVAなので尺を少し伸ばすことも可能だということで、TVシリーズよりも本編を4分ほど長くしています。そしてもう一つというのが、独特の“間”は活かしつつも、会話を被せ気味にしてテンポ感を上げることでした。そもそも、リアルな女子高生のおしゃべりって、ほかの人の発言が終わるのを待たずにしゃべりはじめるものだと思うんですよ。だから唯のツッコミや縁の笑い出しのタイミングを、TVシリーズよりも被せ気味にすることで、楽しくしゃべってる雰囲気をもっとリアルに出せるかなと。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

――テンポ感のコントロールは絵コンテの段階で?

かおり氏:
 今回は絵コンテができた段階でコンテ撮(絵コンテをつなげたムービー)を作って、一度カッティングをさせてもらいました。もちろん絵コンテのときもストップウォッチで尺を測りながらやってますし、最後の編集でももう一度シーンやセリフの間を詰めたり伸ばしたりと細かく調整するわけですけど、アフレコ前に一度映像のかたちでテンポ感のイメージを把握できたのは大きかったですね。それによって会話のライブ感がより出しやすくなりましたし、私のイメージをスタッフやキャストの方々に伝えやすくもなりました。

――プリプロ時におけるビデオコンテやプリヴィズの作成は、近年殊に一般化が進んでいるスタイルですが、かおり監督からのご提案だったのでしょうか?

かおり氏:
 そうですね。というのも『ゆゆ式』で何か新しいことをしようというとき、派手なイベントを持ってくるとか、映像を豪華にするとかいった方向はしっくりこないので、工夫するとすればテクニカルな面だろうと。だとすれば『ゆゆ式』は会話が命なので、テンポ感をよりよくできるスタイルは何かと考えていった結果が、アフレコ前にコンテ撮で一度カッティングするというやり方だったんです。
 またテンポ感をアップしたいということは、アフレコのときにもお伝えしてあって。一般に被り気味の会話は別録りで処理する必要があるので、キャストさんも音響さんもやりづらかったと思うんですけど、作業コストをかけてでも『ゆゆ式』の生っぽい会話のテンポ感にはこだわるようにしましたね。

『ゆゆ式』の空気感を支えるキャスト陣

――キャストについても順にうかがわせてください。まずゆずこ役の大久保瑠美さんはいかがでした?

かおり氏:
 ゆずこは周囲を笑わせるキーパーソンなので、しゃべり倒しですごくむずかしい役だったと思います。ただ、大久保さん自身がゆずこみたいなノリの方なので、ご本人の魅力のままに芝居していただくだけでゆずこらしさが出るんですよ。なので私からは、シーンごとのイメージに沿って「ここはもっとエロおやじみたいに!」みたいなオーダーを出すくらいでしたね(笑)。

――ゆずこ自身が、シチュエーションごとに役を演じる女の子なので、演技にも幅広いバリエーションが要求されますよね。

かおり氏:
 そうですね。シーンごとのイントネーションの違いには気を配っていただきました。なかでも、Aパートの「頑張らなくていいかー……おふっ」のところは、「おふっ」というこもった笑いのところを何度か録りなおしさせていただいて。OVA特典の「キャストコメント入り複製縮刷台本」でも、大久保さんが「ここ何回も収録したー!!」と書かれてましたね(笑)。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

――つづいて唯役の津田美波さんはいかがでしたか。

かおり氏:
 唯は唯でツッコミのバリエーションが豊富で、それでいて厳しい口調のなかにも「お前らのこと大好きだぞ!」っていう気持ちがこもってると思うんですね。津田さんの演技はそこがちゃんと伝わるようになっていて。それも作りこんだ声ではなくナチュラルな演技のままできてしまうところが魅力ですね。ただ唯もシーンごとに私の側での演技のイメージがあるので、そことのすり合わせは大変だったと思います。一番こだわったのは、ゆずこのために売店に昼食を買いに行くシーンですね。

――今回のOVAで一番の長ゼリフのシーンですね。一般に、セリフを追うことに気を取られて、感情を乗せるのがむずかしくなりがちなシーンだと思います。

かおり氏:
 そうなんです。なのであそこは、もうちょっと悩んでる感じを出してくださいとお願いして、何度かやりなおしてもらったんですけど、最終的には絶妙なニュアンスをうまく汲み取っていただけて。唯がゆずこのことを想う、すごくいい雰囲気が出せたと思います。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

――縁役の種田梨沙さんはいかがでしたか。

かおり氏:
 縁の笑い声は、TVシリーズのときから大事な部分だと思っていたので、OVAも種田さんに継続して演じていただけたのはうれしかったですね。縁の笑いで終わる会話が多いので、もしその笑い声が耳に障るものだったら、『ゆゆ式』全体が嫌な感じになってしまうと思うんですよ。だから笑っててなんか楽しいみたいな気持ちにさせられるような、それでいてきちんと縁の声で笑ってくださる方、ということで種田さんは『ゆゆ式』に絶対に欠かせないと思っていました。

――そもそも縁の声は、種田さんのお仕事のなかでも異色な演技だと思うのですが、どういった経緯で生まれたものなのでしょうか。

かおり氏:
 こちらから何か指定したわけではなくて、オーディションのときに、種田さんが演じた縁がはじめからあの声だったんですよ。みんなで「これ縁の笑い声じゃない?」ってびっくりしましたね(笑)。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

――またメインの3人のほかに、顧問の松本(頼子)先生と相川・岡野・長谷川の3人がいますが、そちらはいかがでした?

かおり氏:
 堀江(由衣)さん演じるお母さん先生はもうイメージにピッタリ、まさに「おかーさーん!」って感じで、何も言うことないですね(笑)。お母さん先生は、前回のBlu-ray BOXの特典ドラマCDも少ししか登場してなかったので、ブランクが大きかったはずなんですけど、すぐにポーンとお母さん先生が出せるところは流石だなと思いました。
 相川さん役の茅野(愛衣)さんは、本人もあいちゃんなんですけど、聞いてると「あいちゃんだなー」ってニヤニヤしちゃうんですよね。今回の相川さんはずっと汗を飛ばしながら困ってますけどその声すらかわいいっていう。部室で先生に「お、お母さん?」っていうところだけ、何回か録りなおさせてもらったんですけど、思わず「もっとオロオロして!」「うん、いいよ、次お母さん見て」って、私たちがリアルゆずこになってました(笑)。
 潘(めぐみ)さんには、岡野がもともとあんまり女の子らしくない口調なので、そのままやると単にガサツな子みたいになってしまうなと、演技のなかで女の子っぽい部分も感じ取れるようにしてほしいとお願いしましたね。ただ、あのちょっとぶっきらぼうな雰囲気は、男の子キャラをたくさんやってきた潘さんだからこそ出せるものだと思います。
 長谷川役の清水(茉菜)さんには、ふみのぽわっとした感じを強調してくださいとお願いしましたね。ふみは朴訥というか、飄々とした性格の子ですけど、清水さんは地声もあんな雰囲気なので、その感じをうまく活かしてもらいました。

2年生の365日を全部描きたい

――そろそろまとめに入りたいのですが、かおり監督から見て、『ゆゆ式』がこんなにもファンに愛されている理由はどこにあると思いますか?

かおり氏:
 みなさんそれぞれ個別の理由があると思うんですけど、私はゆずこたち3人が3人とも、いまの関係性を維持しようとがんばってる、あの優しい世界に憧れますね。全部を肯定するような空気感に満ちていて、そこがすごく心地いいんじゃないかなと思います。三上先生の菩薩力のなせる技ですね。

――菩薩力ですか。

かおり氏:
 三上先生の話の作り方って、誰かを傷つけたり貶したりするネタは絶対入れないじゃないですか。先生の優しい性格が反映されているんだと思うんです。
 アニメに関しても「こんなに自由でいいのか」というくらい任せてくださって、シナリオや絵コンテをチェックしていただくときも、何でも褒めてくださるんですよ。いつも心温まる感想を添えて「いいですね!」と返してくださって、今回新しいキャラクターデザインをチェックしていただいたときも「再現度すごいですね。これで動くと思うと楽しみです」って。菩薩のような方ですね。すごく励みになりました。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

――また気になる『ゆゆ式』の今後について、かおり監督から言える範囲で結構ですので、コメントなどいただけるでしょうか。

かおり氏:
 私が決められることではないので今後についてはわからないですけど、もし「2期やります?」って聞かれたら、それはもう全力で「やらせてください!」と応えますね。

――ただ、もし第2期をやるとすれば、すでに高校2年生の秋まで来ていることを考えると、3人の卒業までを描くことになるのではないでしょうか。

かおり氏:
 原作でも時間の経過を意識しているシーンが時々ありますよね。最新の第8巻では唯が「じゃああと一年であたしらも修学旅行か」と言ったり、あとOVAにもアレンジして入れましたけど第6巻でも唯が「もう2年の3学期か…」って言ったり。
 でも『ゆゆ式』が終わってしまったら悲しいですよね……。だから冬の次はまた春になればいいと思います、2年生の春に(笑)。2年生の365日分を全部描けばいいんですよ。

――それは三上先生にもまだまだがんばってもらう必要がありそうですね(笑)。では、かおり監督のなかで、まだアニメ化してないけれども絶対にやっておきたいエピソードなどはありますか?

かおり氏:
 基本的にまだやってないエピソードは全部やりたいんですけど(笑)、一つ迷ってるシーンがあって。第5巻でお母さん先生の高校時代を振り返ってるシーンです。そこで唯が「その頃の友達って今も会ったりするんですか?」って聞くと、先生が最後にモノローグで「あなた達が思ってるほど今さみしいって感じない」って言っちゃうんですよ。やってみたいと思うと同時にやっちゃいけない気がしていて……でも観てみたいエピソードですね。

――ありがとうございました。最後に『ゆゆ式』ファンへのメッセージをお願いします。

かおり氏:
 いつまでもファンでいてくれて、本当にありがとうございますという感謝しかないですね。日々新しいコンテンツが出てきて、ともするとそっちに目移りするものじゃないですか。でもいろんな作品を楽しみつつも、『ゆゆ式』を好きでいつづけてくれる、『ゆゆ式』が一番だって言ってくれる人がいるのは、本当にすごいことだなと思うんですよ。そのことへの感謝は、どれだけたくさんお礼を言っても足りないくらいですね。一人ひとりにありがとうございますと伝えたいです。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

 4年ぶりのアニメ『ゆゆ式』のコンセプトが、TVシリーズの延長線上にある変わらない日常であったように、4年ぶりに『ゆゆ式』を手がけるかおり監督が作品へと注ぐ愛情にも変わりはなかった――。

 『ゆゆ式』の魅力の一つには、もちろん原作マンガそのものの力が挙げられる。女子高生たちのゆるいコミュニケーションを描く『ゆゆ式』ではしかし、そのゆるいコミュニケーションの掘り下げ自体はまったくゆるくない。人間関係をめぐる気配りと距離感への意識、空気感の描写は、緻密極まるものだ。

 そのうえでおそらく、もう一つ決定的な理由を挙げるとすれば、それはアニメスタッフが『ゆゆ式』に注ぐ、惜しむことない愛情だったのではないかと思う。
 先に、ファンが抱く深い“『ゆゆ式』愛”に対する、小倉プロデューサーからの感謝の言葉を引いたが、他方でBlu-ray BOXのブックレットには、シリーズ構成・脚本の高橋ナツコ氏によるこんな証言が掲載されている。

 「会議も毎回それぞれが『ゆゆ式』への思いの丈を話し出すから、6時間や7時間なんて当たり前で。アニメで扱うコミックス第4巻までは、全員がこれは何巻の何ページのネタだってところまで全部暗記してたんです(笑)〔…〕プロデューサーまで全部覚えてらしたことには驚かされました」

 ファンは敏感だ。スタッフが、製作サイドが、その作品にどれだけ熱をこめて臨んでいるのかをすぐに見抜く。
 『ゆゆ式』がこれほどの熱気で受け入れられたその背景には、ほかならぬ製・制作陣から溢れ出る“『ゆゆ式』愛”があったからなのではないか。そしてその愛は、きっと作品を通じて、視聴者にも伝染していくものなのだ――そんなことを強く感じさせられる取材であった。


『ゆゆ式』OVA
困らせたり、困らされたり〈初回限定版〉
2017年2月22日(水)より発売中

<初回限定版特典>
◆2017年5月7日(日)開催 イベントチケット優先販売申込券
【出演】大久保瑠美/津田美波/茅野愛衣/潘めぐみ/清水茉菜
◆ 複製キャストコメント入り縮刷台本
◆ 原作・三上小又描きおろし三方背ケース
◆ キャラクターデザイン・伊藤晋之描きおろし特殊パッケージ仕様
◆ 特製ブックレット
◆ 新録ドラマCD(出演:大久保瑠美、種田梨沙、津田美波)

ゆゆ式OVA キャラクターソングアルバム
2017年03月24日(金)発売

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

「ゆゆ式」公式サイト

「ゆゆ式」ニコニコチャンネル

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