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『となりのトトロ』と『もののけ姫』は同じ世界観で繋がった物語だった トトロと乙事主に隠された“共通点”をアニメ評論家が解説

森を奪われひっそり生きることを選んだトトロ

岡田:
 現代の僕らが目にするような自然というのは、本当の意味での自然ではないんです。

 キャンプなんかに行って、山を見たりすると「ああ、自然だな」なんて思うじゃないですか。だけど、あれは本当の意味での自然ではなく、弥生民族たちの大規模農業によって、一度、改造された後の自然なんです。現在残っている森の内99%は、もう原生林ではなく、農業が作った雑木林に取って代わられています。

 トトロたちの先祖である古代の神々は、そんな雑木林では生きられないんですよ。彼らは原始の森から生まれたような存在ですから。だから、乙事主が言うように「身体が小さく、言葉も喋れなくなった」んです。

 そして、乙事主にそう言わせるような存在こそが、『となりのトトロ』に出てくるトトロなんですね。体長がわずか2mしかなく、もはや人間の言葉も喋れない、かつての神様です。

 『もののけ姫』の中で、散々「我々はもう終わりだ」とか「これからは身体がどんどん小さくなって、言葉を話す知性もなくなっていくだろう」なんて言われた、その成れの果ての子孫がトトロなんですよ。

 だけど、その代わり、トトロは人間と共存することを覚えるようになったんです。ドングリを食べるようになって、里山の近くの鎮守の森でひっそり生きて、縄文人たちから土器を作ることを習い、江戸時代の子供からコマを作ることを習う。そんなふうに“ひっそりと生きる”方法を覚えたんですね。

 おそらく、600年くらい前に起きた“もののけ姫大戦”とでも呼ぶような戦いに破れた神々の子孫たちが、今も、日本中のいろんなところでひっそり暮らしているんでしょう。つまり、トトロというのは、西洋人に絶滅させられかけた“アメリカン・インディアン”みたいなものなんですよ。今やそういった存在なので、稲作をする弥生人……つまり僕らに見つからないように、ひっそり生きているというわけですね。

『トトロ』と『もののけ姫』は同じ世界観で繋がっている

 宮崎さんは、『となりのトトロ』を作る時のベースの設定として、ここまで考えていたんですよ。でも、“子供向け”ということで、これらの設定は、あくまでも隠して作っていたんです。

 ところが、それでは我慢できなくなって、ついにその10年後、この設定を正面から描いた『もののけ姫』を作ることになるんですよね。つまり、『スター・ウォーズ』と同じように、先にオチの部分を描いて、その後に「なぜ、そうなったのか?」という部分を遡って描くことになりました。

 そういう意味では、『もののけ姫』と『となりのトトロ』というのは、続きものの関係になっているんです。宮崎さんとしては、本当は、この世界観は『となりのトトロ』で終わるつもりだったんですけど、それでは我慢できなかったんです。

 なぜかというと、その後の宮崎さんは、縄文時代の農業とか、照葉樹林文化とかにどんどんハマっていってしまったからです。その結果、もう書かずにはいれなくなり、『もののけ姫』を作っちゃったんですよ。

 そして、実はこの世界設定は、もうひとつ別の宮崎作品にも繋がっています。それが、「巨大な神様に隠れて、人間が細々と生きている時代」を描いた『風の谷のナウシカ』なんです。

 宮崎さんは、この次の時代である「巨大な神を人間が滅ぼしてしまう話」というのを『もののけ姫』で描き、「完全に人類の時代になってしまった後、細々と生きている、今は見る影もなくなってしまった神々の末裔と子供達との物語」というのを『となりのトトロ』で描いています。

 つまり、これらの宮崎作品というのは、すごく大きい循環の中で繋がっているんです。

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