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児童ポルノ規制法、有害図書指定、通信の秘密の瓦解、マンガ・アニメを規制する様々な圧力とは?【山田太郎と考える「表現規制問題」第3回】

児童ポルノ規制法に該当する、しないの“ひどすぎる基準”

山田:
 さて、この法律を受けてその後はどうなっているのか? なども踏まえて専門家である山口先生のご意見を聞かせていただければと思うのですが。

山口:
 現状、二次元のものは正面から規制の対象にはなっていません。なぜ正面から規制になっていないかというと、その他のものがある。その他のものという概念がある以上、理論的に言えば絵なども入りうる。実在の児童の様子を描写したとか、忠実に模写したとか、そういったことは理論的には入りうるのでしょうが、正面から純粋な創作物について規制するというのは、児童ポルノ禁止法によってはできないという現状になっています。

 この流れは、99年にこの法律ができたときからずっと二次元を入れたい人たちとせめぎ合いが行われています。最後の最後で、「入れない」方に押し切ったということですね。市民運動の中ではなかなか貴重な勝利のケースと言えるため、この運動論は他にも使えるのではないかなと思っています。

山田:
 二次元、三次元の問題もありますが、三次元、「実在の子どもを守れる法律なのか?」という意味で、児童ポルノ規制法は問題の多い法律ですから、立法段階で質疑を行っています。これは私が参議院の法務委員会に出た際に40分ほど質疑応答した際に使用したフリップです。

山田:
 児童ポルノ規制法は、本来は子どもを虐待から守るための法律なんだけども、条文が児童ポルノ(児童の裸の写真等)を防ぐのみが目的になっている。入り口は個人を守る法律だったのに、出口が社会の筋を作るみたいなことになっている。それはなぜかというと……ちょっと読み上げるのも忍びないのすが(苦笑)。

智恵莉:
 そうですね。

山田:
 「性的な虐待が実際に行われているが、顔のみを写した動画」は取り締まることができない。「衣服を着けた児童に、精子がかけられている」ということも児童ポルノに該当するという判断はできない。「動物の性器を触っている例」、「服の上からロープで縛られていて、性器等の強調がない」も該当しない。そして「性的虐待の音声」も、「視覚により認識することができる方法により描写したもの」ということが、児童ポルノの定義に入っているため、このことだけをもって該当することはできない、と。

智恵莉:
 ……。

山田:
 性虐待記録物という話で進めれば、これらは全て当然性虐待記録物になりますから防止できたと思います。ですが、児童ポルノの定義が要するに“裸か裸ではないか”ということが問われている。この部分に密接に関わってくるのが、「3号ポルノ」と言われる部分ですね。児童ポルノ規制法の第2条3項の1、2、3に「児童ポルノとは何か?」と明記されているわけですが……。

児童ポルノ規制法の第2条3項の1、2、3
一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

山田:
 3つ目の「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの」。これが問題になっているわけです。見て、「興奮したかどうか」が問われている。

 前回2回目の放送でも触れましたが、「フェチの人はどうなるんですか?」と国会で聞いたわけです。足首を見ても興奮する人はいるわけですからね。すると、「普通の人を対象とする」というような答えが返ってきた。

智恵莉:
 普通の人って何でしょうね(苦笑)。

山田:
 そこで「3歳以下の幼児が虐待されているビデオを見て、普通の一般人は興奮しますか?」と聞いたんです。興奮するわけないですよね!? 不快な思いをするだけですよね? となると、そういうビデオがあってもこの法律は児童ポルノに当たらないじゃないか、と。そもそも法律が論理矛盾を起こしているんです。

山田:
 さらに言うと、ポルノかどうかを問われるとモザイクさえかけておけばOKということ。さらに逆の危険性として該当するものの中には、18歳未満のコスプレイヤーのきわどい写真、特定はできないが18歳未満に見える写真、子どもの水浴び写真などがある。最終的にリアルな子どもを守らなければならないという話であれば、リアルな子どもの特定をしなければいけない。
 だったら、「特定できないものであれば捕まらないんですか?」と聞いたところ、「18歳未満に見えれば対象である」と返ってきた。でも、「そんなこと分からないじゃないか!」というように、こんな具合で国会では珍解答が続出していたんですよ。酷い議論でしょ。生煮えのまま、目的も迷走して立法された法律なんです(笑)。

智恵莉:
 う~ん……。

山田:
 私としては、附帯決議まで出して附則第2条からマンガ・アニメ・ゲームに関する条文を取り払い、その上で各党と同意をした責任者でもあったので本会議では完全に反対するというわけにはいかなかったけど、あまりの法律の出来の悪さにそのまま賛成することはできなかった。そのため本会議では棄権の立場を取らせていただきました。これが誤解されて前回話したようにブキッキオさんからケンカ腰で睨まれることにつながるわけですね(苦笑)。

智恵莉:
 はい(笑)。

韓国の児ポ法「アチョン法」の異常な重罰ぶり

山田:
 そしてこの後、マンガ・アニメ・ゲームのエロ、グロ、暴力、特にエロの部分がいろいろと問題になってくるわけです。単純所持(平成27年7月に施行された児童ポルノ法の一部改正により児童ポルノの単純所持でも処罰の対象となった)という問題を鑑みたとき、児童ポルノに該当する画像を持った人が結構出てくるわけです。これは山口先生、ニコニコ生放送を一緒にしたこと懐かしいですよね?

山口:
 二年前でしたっけ?

山田:
 単純所持施行前日にあたる、2015年7月14日にこのニコニコのスタジオで、明日までに該当するものをどうすれば破棄、破壊できるかを考える放送をしたんですよね(笑)。

■参考番組
【児童ポルノ単純所持 罰則適用直前】 あなたのHDDは大丈夫?

山口:
 (笑)

山田:
 ハードディスクを壊さないとダメだとか、ね。パソコン上から消しても、復活ソフトが入っていると消したことになっていないんですよ。

 また、もし、附則の2条がついて、その後、マンガ・アニメ・ゲームまで規制されていたら、韓国の児童ポルノ規制法にあたる「アチョン法」の例があります。日本は児童ポルノに関しては戦って勝ったという珍しいケースなのですが、韓国では完全に負けてしまった例なんです。目的は児童の性犯罪からの保護ということなのですが、韓国では禁止行為としてはこのように規制が強化されてしまいました。

山田:
 ⑤に「その他性的な行為」というものがあります。その⑤に該当する対象物として、「青少年と認識しうる表現物」と書いてある。ここにマンガ・アニメ・ゲームが入ってしまったわけですね。そして罰則が非常に重くて、無期または5年以上の懲役を含めた厳しいものになっています。製造罪に対しては、成人女性に対する強姦(懲役3年以上)よりもアチョン法(懲役5年以上/就業制限/身元登録)の方が重いんですよ。

山田:
 実在の児童を強姦するのではなく、マンガ・アニメ・ゲーム内においての製造ですからね。身元まで明らかにされてしまうという……。実際の強姦罪よりも厳しい処罰に課されるわけです。
 直に聞いてきましたけど、アチョン法によって韓国のマンガ、アニメ業界はおっかなくて少女を描くことができなくなった。私が実際に取材に行ったんですが、韓国の漫画協会では、業界全体が崩壊してしまったとも言っていました。韓国では日本のアニメ・ゲームの下請けなどもしていたのですが、性表現に関する微妙なものは受けられなくなったと。こういったケースがあるだけに、もし日本でも附則第2条を含め、規制が強化されていれば対岸の火事ではなかったかもしれないわけです。

山口:
 アチョン法で言うと、国外犯処罰規定というものがあって、韓国籍を持っていれば(韓国人であれば)、国外で法を犯しても処罰規制になってしまいます。例えば、韓国籍のアーティストがコミケなどでHな同人誌を売っていると、アチョン法違反で逮捕することができます。もちろん、日本国内に韓国の主権は及びませんから逮捕できませんけど、大使館から出頭命令を出すとか、パスポートを取り上げることなどはできてしまいます。

智恵莉:
 へ~。

山口:
 実は、日本においても著作権法違反などは国外犯処罰規定の対象となります。リッピングなど国内において著作権法違反にあたる行為を日本人が海外で行うと適用される。問題のない国で行っても関係はありません。海外でパロディを行ったとしても、日本における著作権違反を犯しているなら免責されるということはないため、処罰の対象になりえます。国外犯処罰規定があることで、作家さんの中には本国に帰れなくなっている人もいる。
 こういう人たちに対して、日本がどういう対応をしていくのかということも一考の余地があるところですね。厳密に詰めていくと、難民の要件を満たすとかになるのかなぁ。

山田:
 ほほう(笑)。

山口:
 そして、先ほど話に上がっていた現在の児童ポルノ規制法では子どもの人権侵害を守れない枠組みになっているというのはその通りなんです。3号ポルノの部分に関してですが、もう一度画像が見れますか?

山口:
 「性欲を興奮させ又は刺激するもの」。これって子ども、被写体の基準ではないんですよね。見る側を基準とした法律になっているんですね。ポルノのという概念を入れてしまったがゆえに、ポルノグラフィを見た人間にどういう影響を与えるかという観点で規制するものになっている。被写体となっている人間が、人権侵害に当たるという感覚ではないんですよ。

 逆に言えば、この言葉を作った人は頭がいいなぁと。児童ポルノという言葉を使っているがゆえに、規制したい人たちはマンガ・アニメ・ゲームも規制対象に入れたい、入れられるとなるわけです。山田先生が仰るように「児童性虐待描写物」などの言い方であったならば、こういうことにはなっていなかったと思いますね。

「フィギュア事件」に代表される児童ポルノ規制法が抱える問題

山田:
 裁判所の判決にまで影響が出ちゃいますからね(苦笑)。

山口:
 そうですね。裁判所も影響を受けているでしょうね。見られる側を基準にしないで見る側を基準にしているため、何を守るための法律、法域と呼ばれるものがあいまいになってしまっている。本来であれば児童の人権を守るための個人法益なのですが、ポルノグラフィのような書き方をしてしまっているため社会法益、社会の風潮を取り締まる法律に見えてしまう。私の先輩弁護士も言っていますが、“変な性欲防止法”になっていると思いますね。

山田:
 こういう法律ですから印象操作みたいなことも行われるんですね。私が国会で扱った中に、「フィギュア事件」というものがあります。2016年2月16日のニュースですが、児童ポルノ規制法違反で捕まった人の家から押収したたものとして、これみよがしにフィギュアをさらしているんですね。これではあたかもフィギュアが悪のように映ってしまうわけです。

智恵莉:
 たしかに。

山田:
 ただちに3月4日の参議院の予算委員会で、岩城法務大臣に「実在しない児童をモデルとしたフィギュアというのは、これは児童ポルノに当たるのかどうか」と聞きました。すると、大臣は「児童ポルノには該当しないと解されるものと存じます」と答えました。該当するわけではないのに、イメージが先行して勝手に解釈が広がっていく危険性があるわけですよね。それに先の例で言えば、関連性がないものを押収したら違法捜査になりませんか? と(笑)。河野国家公安委員長(当時)にも言いましたよ。「違法捜査になったら、取り締まることができなくなってかえってよろしくないのではありませんか?」って。

智恵莉:
 (笑)

山田:
 児童ポルノの問題に関しては、前提として子どもの虐待をなくしていかなければならない。子どもの虐待をなくしていくためには、前回も触れましたが虐待の加害者の7割が実の親であるという状況下で、性犯罪者や性異常者ばかりを吊し上げても根本は解決しないわけです。それにも関わらず、マンガ・アニメ・ゲームが好きな人を……まるで犯罪者予備軍のように扱い、あたかも子どもに虐待を加える対象のように印象操作するのはちょっと変じゃありませんか? ということですよね。そこにメスを入れていかなければいけないと思いますね。

智恵莉:
 この点に関しては前回(第二回)の放送で、じっくりと掘り下げていますので、皆さん、ぜひチェックしてみてくださいね。というわけで、次の議題が……。

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