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「同人誌は手に入れるものではなく、ライブになった」年間5000サークルと接する同人書店の統括に、目的が体験へと変化する同人誌の今を聞いた

同人誌が持つ「ライブ感」という価値

COMIC ZINでは商業誌の横に同人誌が陳列されていたりする

金田:
 同人誌というものも、究極ブログ形式やデータでもいいわけですし、わざわざ紙にすることという意味は考えちゃいますね。今は製本も簡単にいい感じでできるし、それを手に取ってもらえるコミケなどのイベントや私どものようなショップがある。けど、もしかしたらQRコードやカードなどを使って、読み込ませてスマホで読むみたいなスタイルがすごく流行ったりしたら、この前提が塗り替わることもあるかもしれない。今はただそういうブラウジングがないから本を使っているだけという。

──pixivができてから、作家さんが個人ホームページではなくpixivに作品をアップするようになったりして、pixiv以後でも作家さんを取り巻く環境は変わりましたもんね。同人誌も、今後形が全然変わってしまうこともあるかもと思いつつ、手元に残せるということと本を作る過程、実際にそれを自分の手で持って行って、コミケなどの即売会でお客さんに手に取ってもらうというのは「経験」とか「ライブ感」なのかなと思います。

コミケなどの同人即売会にある「ライブ感」

金田:
 そういう意味では、同人誌というカルチャーは当面は変わらないんじゃないかなとも思いますね。ライブ感というのは、「同人誌」というものに最後に残った価値かもしれない。やっぱり体を動かすということはコストがかかることなので、それだけかけたという自分の満足は、他に替えがきかないような経験なんです。音楽でライブに行く快楽というのは、VRなどでは代替がきかないのと似ているのかもしれません。

──作る方だけじゃなくて買う方もそうですよね。実際にスペースに行って、作った人から買えると思うと。

金田:
 コミケなどのイベントが元から持っていた要素だったけど、今になって再確認されている気がします。
今までは、他に手段がないからしぶしぶイベントに来ていたのが、ネット通販で買えるようになってもイベントに行って買う。そのことには別の意味があったんだというのが浮き彫りになってきたのかなあと思います。

──それぞれが、どこに「価値」を見出すかが重視されるようになったのでしょうか。手元に残したい、そして実際に足を運んで即売会で買うということに価値を見出す人が多くいる限り、同人誌や即売会の文化は無くならない。

金田:
 昔からこの問題はSFでも扱われていて、「物事の価値とはなんだろうか」ということがポイントで、結論は出ていないはずです。ネット世代になり、何が一番変わってきているかというと“価値に対する考え方”が根底から変わっている。市場の価値観も日々変化しているので、店頭では毎日それと戦っています。 “価値の捉え方の変化”ということを1回ちゃんと整理し直さないと、世の中の大きな波に、わけのわからぬまま飲み込まれてしまうんでしょうね。書店というのはまさにその大きなうねりに巻き込まれている最中なので。本当に難しいです。

デジタル時代の「経験」と同人誌が生まれる趣味のコミュニティ

金田:
 長らく続いてきたものには、それが発展するまでに持っている経験値とか、それでしか表現できない感性とかが絶対的にあるので、絵を描くにも全てがCGになるわけではないんですよね。油絵とか水彩とか、自分の体で絵を描くという一種の楽しみは残り続ける。これだけネットで知った気になれる時代だから、逆に“経験”が重視されているような気がします。

── “インスタ映え”もそうですよね。あれって、自分の足でどこかへ行って写真を撮るという経験だと思うんですよね。あとはゲームなども、ゲームの内で完結しないで最近はリアルイベントを開催するところが増えています。ネットでいろんな情報を受けることができるからこそ、自分で実際に体験する経験みたいなものが重視されているんじゃないかと思います。

金田:
 同人誌のことを考えていると、どうしてもそういうことも考えざるを得なくなってしまうんですよね。同人誌というのはなくても困らないもので、あくまでも「娯楽」なんですよね。じゃぁ娯楽って何なの? というと今は変革期で、まだ「本」というものは無くならないですが、本の変わりになるものというのはものすごい勢いでできている。

 作品を電子書籍で読むか本で読むかひとつとっても、それぞれの必要性や楽しみに応じて自分で決めていただきたいと思いますね。そして「同人誌を作る」という経験も、それに対して価値を感じている人がたくさんいてくれるので、簡単になくなったりはしないかなと思います。

──同人誌はそれこそ、その人個人の“価値の結晶”なわけですね。昔から同人誌を出していたわけではない人が、30代40代になっていきなり作家側としてコミケ参戦するというケースも多いものなんでしょうか?

金田:
 体感的には結構いますね。そういう、少し歳を重ねてからの突然の参戦というのは、イラスト系よりは評論系や情報系が多いです。同人誌でも情報系は、その人の趣味が高じてみたいな感じで作り出すので、うちではそういう方々のはじめての同人誌もずいぶん扱いました。そういう方々は、今まで全くコミケに行ったことなかったけど、趣味のコミュニティの中で誰かが同人誌を作り、作ってみたら意外と面白かったぞ、と勧めて波及していくイメージです。

──評論系や情報系ジャンルが好きな人ってだいたい趣味が多くてアニメやゲームをかじったことがあって、コミケには行ったことなくとも「コミケに評論島がある」ということぐらいは知っているので、そういうのが出せる場所として選んだのがコミケだったという感じなのかと思います。

金田:
コミケの懐の広さは世界最高ですからね。
完全に異分野からの作家参戦の場合はコミュニティの力が強いのかなと、自転車や飲食店本などははじめて参加って多いです。ロングライド企画とかで遠乗りとかやっていた人が同人誌を作るケースとか。自転車の同人誌は意外かもしれませんが結構出ているんです。

COMIC ZINでも多く扱っている自転車の同人誌

金田:
 コミュニティに触発されて作ってみる流れはあるなあと思っています。もともと同人誌というのはコミケでというより身内でとか、知っている人に向けて作るというのがあり、あわよくばいろんな人に手に取ってもらえたら嬉しいなというものです。そして、そういうものを出す場として、私どものようなショップやコミケという場所がある。試しに同人誌を作ってみたらハマってしまって、それから作り続けている人も多いです。

──明確に趣味といえるものがある人はやろうと思えばいつでも参加できるんでしょうね。趣味自体が活動みたいなもので、本を作るのもその一環でしかない。

金田:
 同人誌は「目的」というより「手段」で、普段からやっている活動をまとめるのに本にするケースが多いのかなと思います。自分の活動を総括したいと思われるのでしょうか。同人誌が実際出来上がってみると、自分の趣味が形になって目の前にあるというのはそれなりに快感があるものです。

 でも、一回売れる売れないを意識して、同人誌に金や欲が絡んでしまうと作るものの方向性とか、どこまでやるのかという毛色が変わって来てしまいます。 そうすると“書きたいもの”ではなくて“売れるもの”を作ろうとしちゃうんですね。すると同人誌に自然に込められている熱量が減ってしまうので、作家さんにはそこは意識しないでほしいと思います。自然に自分が作りたいものを作ってほしい。それが最終的には1番面白い本ができるので。

デジタル時代の「オリジナルの経験」

金田:
 ネットでもSNSでも簡単に繋がれる時代になりましたけど、リアルに即売会で会うのとはまた違ってくるかなと思います。「会っている感」というのはもはやVR空間でも演出ができるようになったわけですよね。「VRチャット」とかもそういう感じだと思うんですけど、今実際に会ってお話ししているのだって 別に“サイバースペースで会う”こともできるわけです。

──Skypeなどでもオンライン上の会議は可能ですからね。でも、そういうオンライン上で会話できるサービスや、サイバースペースで会っている風の演出の中で会うのと、こうして顔を合わせて喋るのでは、きっと話す内容も変わっているんでしょうね。

金田:
 こう、会ってお話しするのも一種のライブ感なんですよね。デジタルですべてのものが再現可能になるなかで、唯一残されたものは何だろうということを考えているんですけど、デジタルで何かを完全に再現したとしても「同じ」という意味しかないんですよね。デジタルで再現したものそのものはオリジナルにはなれないわけです。

 “実際に会う”というのも“オリジナルの経験”のひとつなんだと思います。でもこれも、会うということに自分が価値を見出すことができたということだけなので、これからは“それぞれが何に価値を見出していくか”が問われていくんじゃないかなと思います。

“実際に会う”というのも“オリジナルの経験”のひとつだと話す金田氏

 奥深い同人誌カルチャー。前回と引き続き、「人はなぜ同人誌を作るのか」というテーマに行き当たりました。

 新しい勢力としての「VTuber」や、ネット時代の娯楽の楽しみ方、同人誌という娯楽、同人誌カルチャーの持つ「ライブ感」や生まれる土壌としての趣味のコミュニティや同人誌の最前線にいる金田氏ならではの視点のお話をいろいろ伺うことができました。コミケなど即売会をはじめショップには、それぞれの体験の結晶としての情報系・評論系の同人誌もたくさんあります。

 同人誌で新しい扉を開いてみてはいかがでしょうか。

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