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日本のアニメと漫画で育ったフランス人漫画編集者が、同人作家をスカウトするためにコミケに行ってみた

フランスのJapan Expoも主な出展者は企業

 そして、フランス人の「オタク度」は日本ほど高くないというところもあるでしょう。フランスでの「漫画」の歴史は主に2000年から始まっています。それまでは『AKIRA』や『攻殻機動隊』という名作はちょくちょく出ていましたが、2000年以降はアニメで人気を得た作品を中心に漫画作品がどんどん出版されてきました。

 たったの17年前の話です。昔から漫画を読み、どんどん新しいものを求めてきた日本の読者はエッセイマンガ、癒し系の日常的な作品、萌え系など、特にストーリーがなくても楽しめられるようなジャンルが多く生まれてきました。一方で、フランスの読者は少女漫画、少年漫画、青年漫画、全ジャンルを受け入れてはいますが、まだストーリーを重視する傾向が強いですし、画風に関しては厳しいです。例えば、日本でアニメ化までされた『宝石の国』のような実験的な作品はウケません。

 つまり、同人誌はフランスにもあるとしても、まださほど発展している文化ではありません。上記のヨーロッパ最大の漫画コンベンションであるJapan Expoも、主な出展者は企業です。Ki-oonもそこで毎年巨大なブースを設営し、新刊を大幅に宣伝しています。漫画専門出版社、漫画関連商品の店、ゲーム会社などが入場者の注目を引くのに努力を惜しまず争っている中、同人誌コーナーはあまり目立たないのです。

パリで毎年7月に開催されるフランス最大の漫画祭・Japan ExpoでのKi-oonのブース。作品を宣伝する大きなチャンスです。

実際に行ってみたら、驚きの連発

  つまり、コミケやコミティアのような大きな同人誌イベントがフランスには存在していません。私にとってこれはとても新鮮なことでした。初めて編集者としてコミケに参加した時のことは忘れられません。それは2015年の冬コミでした。予定通り二時間前に着いたのに、ものすごい行列が既にできていました。ちょっとした絶望感を味わいましたが、周りの人が焦らず誘導されるところに進んでいたので、とりあえずついていきました。

 ・驚きその一:女性が多いです!オタクの男の世界だと勝手に想像していたのに、若い女性に囲まれながら並んでいました。

よく見てみれば女性がかなり大勢います。

 ・驚きその二:ボランティアー達のその大人数のスムーズな誘導に本当に感心しました。開始時間になったら、なんと30分くらいで入れました! 皆、どこに収まりました!? 魔法みたいでした。

 ・驚きその三:BLと男性向けの作品はあるのはありますが、それ以外にカテゴリーが多様で、一次創作もあり、グッズもあり、電車やミリタリーについての細かい情報系同人誌も売っています。

 Japan Expoと違って、飾りが少なく、エンドレスにテーブルと椅子が並んでいるのを目にした時、その壮大な規模に圧倒されました。ハイキングが好きで足腰に自信はありますが、全部廻ったらいったい何キロになるのでしょうか? とつい考えました。しかし、考えてはいけないですよね。行動するのみ。いざ、出動!

 女性が何故集まってくるのかは一見明瞭でした。どこを見てもBL系の同人誌が売ってありました。男性向けの同人誌に負けていないくらいの数です。思いのほか、女性作家さんも大半を占めているようです。BLや少女漫画に限らず、少年漫画や青年漫画の同人誌作家のほとんどが女性な気がします。コミティアでも同じような印象を受けました。なぜでしょう? 気になるところです。

 そして一番すごかったのは、壁サークルのブースの前に並んでいるファンの人数です。この世界では本当にスターがいます。しかも、商業本を出したことがあるかどうかは関係ありません。自力で宣伝し、認知度を拡大したサークルはいくつもあります。マイノリティーではありますが、それでもネットの力を実感しました。

全世界を震わせる次のヒット作品はもしかしたらここにある!

 それからは何回もコミケとコミティアに足を運んできました。最初は盛り上がりすぎて、同人誌を買いまくってその重さで苦しい思いをしましたが、今はもうちょっと慎重に買い物しています。Ki-oonではBLや成人向けの漫画を出版してはいないのですが、それ以外のジャンルなら全部ありです。少年漫画、青年漫画、少女漫画、子供向けの漫画、フルカラーでも白黒でも、一巻で完結するものも、シリーズものも。

 とりあえずフランスでウケそうな絵柄の同人誌を探してみます。平均的に画力のレベルが高く、気になる作品が多いです。そこで、絵柄以外の条件も参考にしています。コミティアはもともと一次創作の同人誌しかないので、話が早いのですが、コミケでは、作家はプロとして活躍し、ストーリーを作る気があるかどうかを確認する必要があります。

 絵の才能があっても、色々な理由で商業活動を希望していらっしゃらない方が珍しくないことに気付きました。それも意外でした。もったいないと思いつつ、そこは本人の意思を尊重するしかないのです。

絵がうまくても、二次創作以外のものに興味がないという方が珍しくありません。

 しかし、全ての条件が揃っていることもあります。絵柄が丁寧で、背景もキャラもしっかり描かれている。長編でも続けられそうなしっかりしたストーリーラインの基盤が作られている。漫画制作に時間を当てることができる。 こんなチャンスは逃しません! 声をかけ、名刺を渡し、連絡を取り合い、一緒に企画を全力で立て、編集長に送ります。

 フランスには漫画の連載雑誌がないので、単行本は全部描き下ろしになっています。装丁や形が日本と一緒です。 急な打ち切りがない反面、読み切りからのスタートではなく、しっかりしたストーリーを最初から考えていただくことになります。生まれた作品が必ず単行本化され、 発売時期に合わせて新人でも大胆に宣伝されます 。

去年発表したオリジナル作品『OUTLAW PLAYERS』。発売時期に合わせて、予告アニメを公開中。

漫画は日本のみならず、世界のものになってきた

 今まではコミケより、どちらかというとコミティアの方でそういう奇跡の出会いが多かったですが、コミケで知り合った何人かの作家さんとも話し合いし、オリジナル作品の企画を考えて頂いています。フランスの漫画市場が今でも伸びており、その波に乗って新人作家の新風をどんどん吹かせてきたいと思います。

 11月のコミティア内の海外マンガフェスタでブースを構えて、数多くの作家さんと打ち合わせができました。それに続き、12月29日・30日・31日の冬コミにも行きました。そこは漫画編集者から見れば、原石の山です。コミケもコミティアも、その他のイベントも以外なところでフランスと日本の架け橋になっています。

プロフィール
Ki-oon 東京オフィス代表キム・ブデン
講談社の国際事業局で四年半働いた後一旦帰国、三年半フランスの漫画出版社・PIKAの編集長として勤め、2015年の10月からKi-oonの在日オフィス代表として日本に戻り、現在に至る。
編集者として日本で漫画企画を募集しています。
Twitter (日本語): @Kim_Ki_oon
Ki-oon公式ウェブサイト(フランス語):http://www.ki-oon.com/

―コミケ関連インタビュー記事―

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