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「最も良い防衛手段は、その手段を持たないこと」コスタリカに習う平和国家の作り方とは【話者:伊藤千尋】

日本メディアの不信感の原因

伊藤:
 まず、メディア自体ですよね。日本とドイツのメディアを比較して見るとよくわかると思うんだけど、ドイツって戦争が終わって、それまでのメディアは全て解体しちゃったんですよ。新聞もテレビも全く新しい人が、新しい放送から報道をやるようになった。

 日本の場合、戦前を引き継いでるじゃないですか。同じ人たちが同じ新聞を作っている。その後、NHKはラジオからテレビに変わったけど、やってることはほとんど同じ。つまり、戦前から引き継いだものがずっと続いているっていう点で、まず違いますよね。戦前と吹っ切れてない。それがひとつと。

 それから、「誰を向いているメディアか」という自覚。例えば、日本の場合、新聞もテレビも社内に行くと、政治部と経済部とか、いろんな部がありますよね。こんなこと言っても、政治部、経済部って、政治家、経済人と直につながって、彼らのいうことをそのまま流してるじゃないですか。

 経済部、政治部の記者会見に行って、あの記者会見の普通の様子っていうのは政治家がいうことをメモするだけですよね。例えばスペインなんかで僕、大統領の記者会見なんかいくと、この馬鹿野郎がとはいわないけども、それに近いことをいうわけですよ、おかしいじゃないかって。

 ほとんど質問というより非難ですよね。自分は国民を代弁してるんだっていう意識があるからですよ。だから強い言葉で言える。それを言うことによって、大統領、首相の本音を引き出そうということをやるわけですよ。それが世界の普通なんですよね。

日本では国防や防衛という話は右翼的なイメージがあり、話すことがタブー視される傾向があるように感じます

 それは、国防と言い出した時に、まず何が犠牲になるかというと、人権です。お国のために一人の命なんてどうでもいいんだって、こういう話になりがちなんですよね。そうすると、人権意識強いのが左翼ですよね。それで、左翼はあまりそういう話をしたがらない。

 そうすると、右翼と国防が結びつく。そういう構図ですよ。でも、それが僕、いかんと思うのですよ。本当に平和を語るためには軍事を知らないとダメですよ。別に武器の使い方を知らなくても、鉄砲や兵器があって、それが人々にどういうことを及ぼすのかってことを知らないと、平和を語れないんですよ。

日本の国防のあるべきかたち

 僕はもう、今の時代は軍備拡張の時代ではないと思ってるんですね。みんな北朝鮮がどうのこうのって言うんですけど、それよりももっと大切なのは中国との関係ですよ。中国ってあまり気づかれてないけれど、すごい軍事大国になっている。中国の今年度の、2018年度の国防予算は18兆円、日本の約4倍ですからね。日本が5兆円レベルで。

 中国って、これからどんどん経済発展していって、アメリカに近づいていくと。2030年にはアメリカを追い越すと言われる。アメリカの軍事予算って78兆ですよ。じゃあその辺まで、中国が軍事予算増やしていく、それに日本も付き合うかっていう話ですよ。日本の国家予算、今、100兆ですよ。

 よその国がこれだけ拡張したから、うちも拡張しようとか、軍拡の時代じゃないんですよ。そんなことをしたら経済が破綻しちゃうんですよね。軍拡で経済破綻したのがソ連じゃないですか。ソ連はアメリカと軍拡を競っていって、その結果、ロケットは飛ばせるけども、国民にパンを寄越せない。こんなの国家じゃないですよね。

 だから、1991年に潰れたじゃないですか。だったら、もはやその反対の方向にいくべきですよ。嬉しいことに、この日本は平和憲法を持っているんですよね。今から持とうというのではなくて、すでにもってて、しかも最初言ったように、平和憲法ができて7年間、それは実際に実施した時期があるんですよ。

 7年って戦後70年の1割じゃないですか。日本の戦後の歴史の1割は、軍隊を持たないでやってきてるんですよ。だったらそこに帰ればいい。ただし、ただ帰るだけではいけない。それこそ、このコスタリカの映画が示してるように、平和憲法を持ってるだけではなく、使わなければならない。

 世界に平和を輸出する。周りの3つの国の戦争を終わらせる。それだけじゃないですよね。去年、核兵器禁止条約って、国連で採択されたじゃないですか。あの条約提案したのはコスタリカですよ。だから議長になったのは、エレイン・ホワイトさんというコスタリカ人でした。

 そういう世界を平和にするための努力をずっとやってきたら、この国を攻めようという国がなくなっちゃうんですよね。僕、それを具体的に感じたことがあって、それこそ7、8年前、コスタリカに何度目かに行った時に、ふと、田舎町を歩いてたんですよ。

 その時、向こうから女子高校生がやってきた。その子に突然、こういった質問をしました。「日本の記者なんだけども、ちょっと質問していい?」と。すると「何でも聞いてください」と言うもんだから、「あなたの国に平和憲法あるの知ってる?」と聞きました。

 そうしたら、「もちろん知ってます」と。「そんなこと言って、侵略されたらどうするの? あなた殺されるかもしれないよ?それでもいいの?」と聞いたら、彼女は、コスタリカが世界の平和のために何をやってきたかっていうのを、向こう30年前にさかのぼって、滔々と語るんですよ。

 当時、ソ連が地下核実験をやった時に、日本の広島と長崎が核実験反対声明を出そうとした、いち早く共同提案国になったのが我がコスタリカであった、というところから、何年にこれ、何年にこれやった、ということをどんどん述べていって。最近では、周りの3つの戦闘を終わらせたっていうのを述べた上で、「このコスタリカを攻めるような国があれば、世界は放っておきません」と述べたんです。

 まさにそういう国づくりをしてるんですよね。そして、彼女はさらに「私はこの歴代のコスタリカの政府が、世界の平和のためにやってきた努力を誇りに思っています。私はコスタリカ人であることを誇りに思っています」と述べた。こういう社会に僕は日本をしたいと思っています。

 日本人が日本を誇れる国。今、誇れないじゃないですか。ただアメリカに追随して、それから今度は中国が金を持ってきたら中国に追随する? 冗談じゃないですよね。コスタリカはこんな小さな国で、アメリカに対しても物申してます。うちの国、経済大国で、すごい文化を持っている。

 そういう国は誇り持っていいですよね。だったら、本当に主体的になれて、どんな国であろうが、「私たちの生き方はこういう生き方です」と、誇りを、自信をもって言えるような、そういう日本にしたいと思いませんか?

 反日運動があった中国に取材に行ったことがあるんですよ。その時に、中国人からこういう話を聞きました。「心配しないでください。中国人の日本人を見る目は2008年から大きく変わりました」と。僕が取材に行ったの、2010年かそれくらいですよ。

 2008年、四川大地震っていうのがありました。その四川大地震に、日本から救援隊が行ってるんですよ。その救援隊の活動を見て、中国人は目を見張ったという。それは何かというと、中国人の救援隊と、日本人の救援隊と活動が目に見えて違ったという。

 しかもそれがテレビで全国中継された。中国人がみんな見てる時に、日本の救援隊はどうしたかというと、瓦礫の山から遺体が出たら、ヘルメットと手袋を外して、合掌をした。

 これは我々日本人にとって、当たり前じゃないですか。でも、中国人にとっては当たり前ではない。中国の救援隊というのは、死体がでてきたらぽんぽん放るんですよ。

 数が多いからなんだけども、それにしても人権感覚が違うのね。中国人は今、救援隊でやってきてる日本人の若者、昔の日本人の若者が中国にきて、兵隊としてやってきて、中国人と見たら、みんな見境なく殺していた。ところが今、同じ年代の若者が日本からやってきて、中国人を救出している。遺体として出てきたら、ちゃんと弔ってくれる。

 それを、わざわざヘルメットや手袋まで外して合掌してくれる。日本人は変わった。昔のような日本兵じゃない。今の日本人は、中国人以上に中国人を人間として見てくれている、という意識が広がった。

 そしてさらに、僕が聞いた人が言ったのは、どこの国の政府も、よその国の政府を悪く言いますよと。うちの国も、日本の政府が悪いと言います。しかし、それは今の中国政府が、中国をちゃんと統治できていない。民主主義の点で反発される。そうすると、国民の反発を買いたくないから、日本が悪いとかよその国に目を向けさせようとするんですよって。

 だから、そういう時に本当に必要なのは、政府が言ってることを丸ごと信じるんじゃなくて、自分の目で見たことを信じる。あるいは民間の交流ですよね。本当の民間の交流を続けている、経済交流でもいい、NGOでもいい、そういうことを近隣の国とやることによって、私たちはもっといい関係が築ける。お友達になれて、そうしたら戦争なんかしなくてもいい、話し合いで解決しようってなるじゃないですか。

 まさに、ああいう救援活動ってその見本だと思うんですよね。あの時言ったのは自衛隊じゃないですよ。最初、自衛隊が行こうとしたら拒否された。それは「軍隊だから」ですよ。その代わりに行ったのが、東京消防庁のレスキュー隊ですよ。

画像は公式サイトより

 よくやったと思う。別に僕が日本人を代表するわけじゃないけど、「東京消防庁レスキュー隊ありがとう」と言いたくなりますよね。

 そういう活動、実は日本人はあちこちでやっていますよ。アフガンでやってるNGOとか、世界中であちこちでやってる日本の評判は良い。本当に日本のためじゃなくて、金のためでもなく、本当にボランティアでやってくれている日本人。

 そういうことを世界中でよく聞きますよ。だったら、それを国レベルでやればいいんだよね。よく、自衛隊を救援隊にすればいい、国際救援隊にすればいいって。その通りですよ。そういう風にやると、日本の評価はがらっと変わるわけじゃない。今でもいいんですよ、それをさらによくする。

 それによって平和を築く。そういう国際的に、救助隊を出している日本を攻めていいのか。何かうちから災害があったら、もう二度と日本から救援隊が来てくれないぞ、と。それは困るから、日本を攻めるのはやめようと。そういう国にしようじゃないですか。

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