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スタジオより先にCG学校を作り人材を育てた! ハリウッド帰りのタイのクリエイター達がいつか日本を追い越す日

 世界のアニメーションの主流が3DCGになりつつある今、我々の目にする作品のうちの少なくない数が、実は東南アジアの国、タイで制作されているという。
 現在タイでは、ディズニー/ピクサーやルーカスフィルムのILM(インダストリアル・ライト&マジック)を始めとしたハリウッドの3DCGアニメーションスタジオで経験を積んだCGアーティストたちが最先端のスキルを身に付け、帰国後に地元タイでスタジオを開いている。さらに子どもの頃からコンピューターをおもちゃ代わりにして育った新たな世代も巻き込み、次々とハイクオリティーな3DCG作品を送り出しているのだ。

 タイのクリエイターたちの仕事の舞台は、ハリウッドの映画・TVシリーズのVFX、3DCGアニメからミュージックビデオ作品、日本の遊技機のCGアニメーションまで幅広い。そんなタイのCGスタジオが他のアジアの国に比べて発展した背景には、早くからCG学校が作られ、今では大学でCGを学ぶことができる教育や、幼少の頃から日本のアニメやハリウッドの作品に触れられる自由な文化などがある。

 ドワンゴ・吉川圭三とジャーナリストの数土直志が、今後のアニメーションの行方を明らかにする連載の第3回では、バンコクにあるタイを代表するCGスタジオであるThe Monk Studio、Imagimax Studio、RiFF Animation Studioを訪れた。そこで見えてきたのは、成長著しく勢いに乗っているタイのCGだが、その裏には「自分たちが作ったタイの作品をタイの人たちに見て欲しい」という切実な願いがあった。

聞き手:吉川圭三、数土直志
編集:サイトウタカシ
取材協力:コルピ・フェデリコ(株式会社ディー・ビジュアル)
森英夫(digiforest co.ltd)

【第1回】
・群雄割拠の世界アニメ市場で日本アニメは生き残れるのか? 世界最大のアニメーション映画祭アヌシー代表が語る、日本アニメのポテンシャル

【第2回】
・日本アニメが世界ヒットしても何故クリエイターにお金が届かなかったのか? エヴァでヨーロッパにアニメ再ブームを起こしたイタリア人の戦い


The Monk Studio

 最初に訪れたのは、The Monk Studio(以下Monk)2016年に劇場公開されたファイナルファンタジーのフルCG劇場映画『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』でCFX(数値流体力学)による衣装と毛髪のシミュレーションを手掛けた他、2011年のアカデミー長編アニメ映画賞を受賞したジョニー・デップ主演のCGアニメーション作品『ランゴ』や米・詩人アレン・ギンズバーグを描いた実写映画『Howl(原題)』のアニメーションパートなど、ハリウッド案件も手掛け、タイのCG業界ではそのクオリティから特別な存在と評価されている。

制作で大きな役割を果たした『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV 』
(画像は『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV Teaser Trailer [JP]』より)
ジャックさんがアカデミー視覚効果賞を受賞した『ベイブ』
(画像は『映画『ベイブ』(1995)予告編』より)

 創業者のジャックさん(Juck Somsaman)は、1991年から2005年までアメリカの老舗VFXスタジオのリズム&ヒューズ・スタジオに在籍し、CGIスーパーバイザーを務めた『ベイブ』ではアカデミーVFX賞を受賞している。2006年にタイ帰国後にMonkを設立した。

 Monkの主な仕事の発注元はドリームワークスなどアメリカからで80%を占め、日本からもスクエアエニックスを始め大手からの仕事を請け負っており、ここ3〜4年は中国からの発注も増えている。現在、170人ほどの社員が働き、平均年齢も26~27歳と若く非常にモチベーションも高いという。

The Monk Studio創業者でCEOのジャックさん(左)、通訳を務めたdigiforest co.ltd 森英夫(右)

世界クオリティだがコストパフォーマンスの良さがある

──まず、Monkについて教えてください。

ジャック:
 Monkの基本的な業務内容はCG映像作品のコンセプトアートから編集済みの放送・上映用の完成したパッケージまでの制作行っています。外注のみではなく、オリジナルのコンテンツ開発を一から行うことができるように、初期のストーリーの構築など、ストーリーボードから作成できることがMonkの強みとなっています。

 最近では50%を外部から、もう50%をオリジナルで制作しています。これまでオリジナル作品は主に短編が中心だったのですが、現在は新たな出資を得ることもできて、長編作品にも挑戦しています。また外注の作品では、外部の技術に触れて学ぶことで、自分たちの技術もより向上させることにつながっています。そうすることで、オリジナル作品のストーリーを構築することと、アニメーションの技術面では世界のピクサー等と同じレベルを実現することを両立しています。

 私自身がアーティストなので、出資する製作会社などからの影響をあまり受けないオリジナル作品の制作も可能となるアーティストフレンドリーな会社を目指していて、建物の造りなどもリラックスできる環境を心がけています。

閑静な住宅街にある樹木に囲まれたThe Monk Studio(左)、開放感のあるMonkの社内(右)

──中国や他のアジアの国にもCGスタジオはありますが、今、何故タイのスタジオ、中でもMonkが選ばれるのでしょうか?

ジャック:
 まずはクオリティです。中国のCGスタジオはたくさんありますが、中国国内向けに作られる作品数も非常に多いのです。その中でクオリティなどを求めた時にMonkが選ばれ、お仕事をいただいています。もう一つは、Monkは世界クオリティですがコストパフォーマンスの良さがあります。

──そうしたクオリティとコストパフォーマンスがあれば、ハリウッドも含めてMonkに仕事を頼みたい方たちは非常に多いのではないでしょうか?

ジャック:
 既にたくさんの依頼をいただいているので、その中から選ばせていただいています。
 現在、ドリームワークスと提携しているのは、それによって生まれるネームバリューやセキュリティなど、クリエイティブ面以外での理由もあります。実際に公開前の作品の流出から訴訟となるケースもあり、単純に値段だけで選ばれるわけではありません。

幼少からアニメ文化やハリウッド映画に触れているタイのクリエイター

──CGのクリエイティブにおいて、タイの強みはあるのでしょうか?

ジャック:
 タイは近隣諸国に比べて、圧倒的に放送規制が少ない国で、子どもの頃から『ドラえもん』や『仮面ライダー』など色々なアニメ文化やハリウッド映画などに触れて吸収しています。だから美術担当に日本のスタイルで、アメリカのスタイルでと伝えるとイメージ通りのものを作ることができます。逆にタイらしいものができないのですが(笑)。

Monkのオリジナル作品『NINE』。カリフォルニア国際短編映画祭、ロサンゼルス・シネマ・フェスティバル・オブ・ハリウッド他、数々の映画祭で短編アニメーション賞など多数受賞した。
(画像は『The Monk Studios – Nine』より)

──日本とのお仕事をすることも多いと思いますが、タイと日本を比べて違いを感じることはありますか?

ジャック:
 タイ人はオンとオフを上手く使い分けていて、時間の使い方が上手いかもしれません。
 私はアメリカで仕事してきたので、アメリカで重視されているパイプライン【※】の構築管理によって、いかに仕事を早く、楽に行うかが大事だと考えています。例えば、日本とアメリカでは、日本では12時間かけて出来上がるものを、アメリカではいかに6時間で終わらせるかを考えて作っています。でも、出来上がるもののクオリティはほぼ同じなんです。日本のものはデータがすごく重かったりするけれども、アメリカで作ったものはデータが軽い。仕事をどう早く行うか? が考えられていると思います。

※パイプライン
CGアニメーションの制作上での、モデリング、骨格(リグ)の組み込み、アニメーション、照明効果、特殊効果、編集など、各工程のデータのやり取りや更新などをスムーズに行うための仕組みや、そのために開発されたツールのこと。

MonkがILMと共同で制作したジョージ・ルーカス原作、ルーカスフィルム製作の『Strange Magic』
(画像は『Strange Magic Official US Trailer』より)

海外で活躍しても、タイのクリエイターはタイに戻ってくる

──ジャックさんはタイを離れ、アメリカでCGを学び最先端のCGスタジオで活躍されて今戻ってきていますが、今のタイの状況は変わっていますか?

ジャック:
 私はタイの美大を出て、渡米前はカメラマンとして働きながらフィルムによる映像作品の制作を目指していました。しかし、当時のタイには映像制作を学ぶ場所がなかったので、アメリカを目指すことになりました。
 帰国したのは、年齢的なこともありましたが、アメリカの仕事が段々アジアの方に回って来始めた背景もあり、独立の決断をしました。

 今ではタイがアジアの中では一番CG学科の多い国ではないでしょうか。CGを学べる4年制の大学が25か所あり、その他にも多数の専門学校があります。チャンスとステータスを求めてバンコクに集まってくる地方の学生たちのモチベーションは高く、他にも海外のインドなどからも人材は集まってきています。

──今でも、ジャックさんのように海外を目指して行く人はいるのでしょうか?

ジャック:
 タイと日本の差は、日本のクリエイターは海外に行ったらあまり戻ってこないのに対して、タイのクリエイターはタイに戻ってくるところではないでしょうか。そうすることでタイの業界が活気付きますし、またタイという国に将来性、発展性があるからという面もあります。

自然光がふりそそぐ池と樹木のある中庭のカフェテリアで、Monkで働く日本人女性スタッフらも交えてインタビューは行われた。

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